膝を抱えて、ぼんやりと空を見上げる。あのときみたいに弱っている訳ではない私は、人を待っていた。迎えにいくと行ったから、迎えに行くための人を。少し白っぽく紫がかった髪の毛を海風にさらしながら、歩いてくる人影を、だ。どこか悲しげに、うつむいていた視線が緩やかに上がって一息つく。その姿に私は、軽い声で



「 後悔は終わったかい? 」



そう問いかけると、セネルは少しぼんやりとした視線を私に投げてくる。驚いた訳でもなく、悔しい訳でもなく。その瞳に上手く映らない感情が見え隠れして見えて、私はゆっくりと笑みを作る。



「 …終わる訳が、 」

「 ないんだ? 」

「 わかってるなら聞く必要はないだろ 」

「 いやあ…わかってるからこそ言う必要ってあると思ってさ 」



雲の陰が甲板にうつると白い髪が暗く、私の色は少し明るく映る。
隠れた感情と晴れた気持ちを真逆に表すように。私は自分自身に言い聞かせるように、肺に呼吸を送り込むとほんの少しだけ、冷たい



「 言う必要、なんて 」

「 …いつまでウジウジしてんだ。後悔なんていつだって出来るだろう?お前が考えなきゃいけないのはクロエに伝えるための言葉だろうが 」



何を言われたら嬉しいかなんてそんな事が大事だとは言わない。言う本人が伝えたい言葉がどれだけ響くか、どれだけの気持ちを言葉に変換できるかが大事なのであって後悔が一番大事なわけではないという事を伝えたい。どんなきつい言葉だって、私は嬉しかったから



「 今一番不安なのは、セネル。君じゃなく、逃げ出したクロエ自身だ。そして彼女の事を少しでもわかってあげられているのは君なんだよ 」

「 だが、俺は 」

「 あのねえ 」

「 …、俺はお前みたいにはなれない 」

「 誰もなれなんて言ってないぞ 」



残念だったな!なんて呟きそうになった私を押し殺して、セネルの頭を掴む。そんな事を考えたのはこの真っ白な頭なのか、そうなのか!といってやりたい気持ちを抑えて、あえて指先から伝わるようにと考えたのは紛れも無い私だけれど



「 お前はいつも、人の欲しい言葉を言うだろ。だけど、俺はそんなことは考えられないし、クロエがなんていって欲しいのかなんて本当に想像すらつかない 」

「 うん 」

「 だから、伝えるための言葉なんて―― 」

「 ――まったくお堅い発想だなあ、君は 」



あー、やだやだ。まったくこれだから、セネルくんってば。ガンコとか言われるんだよ。本当にこの子ってば、発想に柔らかさが無いよ。もう



「 さっきも言ったとおり、セネルはさ、自分の言いたい事をクロエに言えばいいんだよ。考えるな、感じろ。 」

「 それができたら考えてない! 」

「 だから考えんな!! 」



ぐしゃ、と彼の頭を撫でるとすこし固い髪の毛がわしゃわしゃと音をたてる。不満そうに視線だけを下に向けたセネルの頭を掴んで、無理やり私のほうに向かせると、と奥の方で何を勘違いしたのかカノンノらしき小さな悲鳴が聞こえたが気のせいだろう。都合が悪い事なんてスルスルスルーだ。



「 お前がクロエに言いたい事だけ、頭の中でまとめておけって言ってるんだよ。わかった? 」

「 …あ、ああ 」

「 本当に、 わ か っ た ? 」

「 わ、わかった、わかったから 」

「 考えんなよ 」



じろり、と目を見ると暗い顔以外のセネルの顔が見えた。物凄く焦ってる。恐ろしく焦っている。まるで目の前で鬼を見たような焦りそうだ。正直焦ってもらっても上手く何かを口にするつもりなど無いんだけれども



「 とりあいず、約束だぞ 」

「 …約束、か 」

「 いやとか言ったらぶっとばす 」

「 冗談だろ? 」

「 いや、本気本気 」



約束がいやだとか言われた事無いから、ちょっと一瞬困るかもしれないけれど。多分、断られたら相手がセネルだから腹部辺りに肘を一発打ち込むかもしれない。女の子相手の場合は仲良くゆびきりします



「 そこまでする理由があるのか? 」

「 うーん、まあ…そこは秘密 」




( すきなひとに言われる言葉は )
( きっとどんな時でも暖かだと思うから )
( 私はその言葉を考えて欲しいなんていえないだけなんです )

11/0621.




- ナノ -