「 君が、ディセンダーを育ててくれたのだね、浅葱 」



穏やかでゆるやかな速度で頭に響いた声に目を開ける。ぼんやりとした視界に、青を背負ったグラデーションが色の境界線を見せないとばかりに揺らめいて見えた。私はそれを確認してから、ゆっくりと笑みを浮かべ体を起こそうとすると彼らが一様にそれを拒否するような声が聞こえて、甲板に寝そべったまま複雑な配色を見つめ、ゆっくりと返答を口にした



「 育ててはいないよ。必要なものは、自ら取り入れていく。彼女は、何よりも人間であるのだから 」

「 そうは言っても、彼女はディセンダーだろう? 」

「 特別な力を持った人間だよ。あの子は、人のあたたかさでやすらぎ、人に分け与える名人だ 」

「 …それは、 」



まだ眠たいのかうまくうつる事の無い視界に、何度も瞼をおろしてはあげる。目にゴミが入った痛みも無い。だけれど、上手く映らない。彼らの核が複雑なのか、それとも異変が起きているのかわからないまま



「 それは、君じゃないのかね 」

「 私? 」



ぼやけたままの視界とは別に聞こえるその声はあまりにもハッキリして聞こえた。だけど、それはおかしな言葉ばかりだと思う。私は何一つ特別な力などは持っていない。それに必要なものを取り入れると言っても私にとってはとっても少ないこの世界の文字と、ほんの一握りの情報くらいしかないというのに



「 異界人の浅葱、君は、必要な情報をとりいれ、時に人を安心させ、優しさを与える。だから、エールは、あんなにも優しい子になったと私は思うよ 」

「 優しさは自分で知るものだ 」

「 だが、優しさを知る以前に痛みを知らなくてはいけないだろう? 」

「 痛みをしり、優しさを知るといいたいのか 」

「 ああ、君が、目を瞑っていた理由もそこにあると考えている 」



理由?
何か、理由があっただろうか?



「 いつからだね、その目は 」

「 め? 」

「 気付いていないのか、 」

「 ニアタ、ちょっと、目って、 」

「 マナの減少に伴って起こる現象だとしても、目の色素が薄くなるとは 」

「 え? 」



目の、色素?いやいやいや、さっきまで普通に見えていたし、色素うんぬんで目が見えなくなるとかそういうわけではないだろう。あれ…今、私、なんて、



「 まわりの、彼らは何も言わないというところを考えれば、今進行し始めたのか 」

≪ この世界はいつでもそうだ ≫

「 し、進行、って、 」

≪ わかっている質問を繰り返す、可哀想な私 ≫

「 世界が君にする、圧迫であり、君の体とこの世界の違いが体にでてしまっているのだよ 」



違い。≪ 私も人間なのに ≫わかっていたことだから、気にしない振りをしていた『違う体』。≪ 嘘をつく事で変化を守り通してきたのに、気にしていないわけが無い ≫仕方が無い事だって思ってるから≪ 聞き分けのいい振りで私をおいつめて ≫何とか割り切ってきたと思っていたのに≪ 割り切れない気持ちを全て、私に押し付けた ≫



「 浅葱? 」

≪ 耐え切れたのは、割り切っていたのは、私じゃなくて、私じゃない ≫

「 気分が悪いのか? 」

≪ いつだって、不安だった。いつだって、怖かった。一緒にいたはずの私がいなくなるのが怖い ≫

「 だ、大丈夫だから、 」



私自身の負が憎い訳じゃない。私が抱えなくちゃいけないものだとわかってはいる。だけれど、だけど、≪ 傷ついたのは、『私』だ ≫吐き出す術が、吐き出せる声が、感情が、≪ いつだって、その感情を飲み込んだのは、『私』だ! ≫こんなにも震えるみたいに、胸の奥から私の感情が叫んでいるのに、声に出せない



「 なんでもない。大丈夫。わかっていた事だから 」

≪ わかっていた? ≫

「 ニアタはエールやカノンノに色んなお話をしてあげて?そうしたら、きっと喜ぶから 」

≪ 聞き分けのいい振りを何度すれば、 ≫

「 だが、 」

「 少し、一人になりたいんだ 」



彼らは、そっと私から離れていく。≪ 何故言わない ≫何かに気がついたのか、彼に映った私の笑顔がいびつだったことで何かを感じ取ったというのが本当だとしたら、きっと私はディセンダーに迷惑をかけてしまうんだろう。≪ 私は、もう ≫限界だという事を、彼が悟ってしまったとしたら、



( どこへやれば良いのかわからなくて、 )
( 上手く映らない目で、起き上がった先は、 )
( なんだか少し薄暗くて )

11/0608.




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