エールが前進してから、ニアタに話しかけるために上を向いた。ただ、その一歩前に出る事でディセンダーの座るためのその場所がほんの少し明るく見えて、目を細める。まるでエールに反応したその場所に私がなにかいうわけでもなく、その背中を見つめては以前より薄くなった髪や、肌の色を感じて、胸がきゅうっとなる。苦しいけど、何も出来なくて



「 そうか。世界樹の回復はうまくいったか 」

「 まだ、問題は残っているの。次は世界に蔓延する負を世界樹に流さないといけなくて… 」



ニアタの声が私の耳を通り抜けていく。
カノンノの言葉が少しだけ引っかかって、私の頭の中に入っていくのに、そのいつもどおりの背を見ているとなんだか胸騒ぎがするようで俯いてしまいそうになる。皆はそんな事無いのに、私だけ。まるで、私だけそれを知っているような気がして下唇を噛んだ



「 でも、その為には人間の干渉できない精霊の世界に接触を持つ必要があるの 」



どうして、私がそう思ってしまうんだろう。どうして、彼女の、私の大切な子の変化に気づけてしまうんだろう。皆がエールを大事に思うのは一緒で、私もそのはずなのに。



「 ただ『理論』では科学の力で精霊界へ干渉出来ると私達の仲間は言ってたの 」



そういう意味での彼らと、私の違いはほとんど無いと思っていたのに。カノンノは気付いたらきっと誰かに相談していただろうけれど、いや、でも、パニールのことで色々会って気が回らなかったとしたら、それは気付かなかったんだろうけども。でも、この薄さに、私が気付いたのは、



「 だから、ニアタにならわかるかなと思って 」



きっと、エールに近い場所にいられたってことなのかな



「 では、そなた達に付いて行こう 」

「 ええっ、この建物ごと!? 」



ぼんやりとしてしまう私の前で、優しげな色の光がカノンノの前に下りてくる。七色のグラデーションのゼリーのような石がほのかな光を発して浮いていた。まるで石よりもガラスの入れ物に液体を詰めたみたいなその正確な配色に、ゆっくりと一度瞬きをすると、表情がないはずなのにニアタが笑った気がした。



「 これより我々の本体は、そなた達が目にしているこの石となる 」



その光の奥に見える、私の大切な妹。
その表情は、どこか無理をしているように見えて



「 さあ、行こう。そなた達のブレーンと話をしようではないか 」

「 ニアタ…、ありがとう 」



手を伸ばして、ゆっくりと笑みを浮かべる。言葉を発する事もなく、ただ当たり前みたいに手を伸ばしてエールに微笑むだけで、君は私の手を迷いなくとってくれる。少しだけ冷たくなったその手を優しく握ると、ぎゅうっと帰ってくるその力がなんだか暖かくて



「 じゃあ、帰るか。学者連中驚くぜ。何たって、ニアタを連れ帰るんだからな 」

「 お姉ちゃんは帰ったら、わたしとおやつだよ!約束したもん! 」

「 カノンノも一緒にだって言ってたのに? 」

「 うん!カノンノも一緒!あ、あとね、えっとね、クラトスも! 」

「 もう誘ってあったの? 」

「 ううん!帰ったら誘うの! 」



( お姉ちゃんとおやつ! )
( エール、急がないの )
( まるで姉よりもエールのお母さんみたいになってるな )
( 兼用で便利なお姉ちゃんだからね。たまにおにいちゃんだよ )
( わーい! )

(( それでいいのか…? ))

11/0531.




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