「 驚いた。我々の器もここで朽ち、魂がいよいよ解き放たれるかと思っていたが 」



すずらんを模ったランプが優しい光を灯す中で、そんな声が聞こえた。以前よりも人間らしい言葉の強弱をつけたその声にエールが心なしかやんわりと笑みを浮かべたように見えて、少しだけ頬が緩む。後ろから、一歩また一歩と進む足音。視界の端で、穏やかな光に照らされ歩く、桃色の髪を揺らす少女の表情が通り過ぎる。



「 ニアタ!私、あなたにお礼が言いたくて来たの 」



その顔は、パニールに頭を撫でられているときみたいに穏やかで優しげな目をしていた。その表情につられて嬉しそうに笑みを強めていくエールを見ながら、私はゆっくりとガイから手を離すと彼の青い目が私を、見た



「 私に、いろんな事を教えてくれた。 」



それはきっと、彼も、彼女も



「 寂しかった私にいつも声をかけて支えてくれていた… 」



同じようで、違う感情を宿して。
耳から聞こえる声と違う視線、寂しげなかなしげなその視線を私は何度となく見て、そんな風にさせているのは私だと知りながらも彼の手を再び握る事なんて出来るはずがなくて、声に出さないで、そっと口で模る。



「 なのに、この間はニアタの事を…怖がったりして…。ごめんなさい 」



私なりの感謝の気持ちを込めたその言葉を、ゆっくりと動かして



「 そして、『ありがとう』、ニアタ 」



感謝を口にした。たった一言、それだけなのに、彼は驚いたように目を見開いて、それから『もう大丈夫かい?』と名残惜しそうに私の手を指差す。



「 カノンノ。我々もいい夢を見ていた。また、会えて嬉しく思っている 」



そっと作るピースに彼は苦笑して私を見たけれど、ニアタの声を聞いて彼は再び少し上を向いてしまった。きっと、大丈夫だってことはわかってくれたんだろう。大丈夫、多分おばけはでないはずだから、彼の行動制御するみたいに手を掴んでいなくても平気だろう。平気であってほしい。今度出られたら大問題だよ、問題外の大問題だ!



「 そして、異界の娘。そなたも、無事であったか 」

「 …五分五分のところだけどねえ 」

「 朽ちる前に、話をしてみたいと思っていたところだ 」

「 ゆっくりと話すのは、また今度にしてほしいんだけどなあ。ニアタに、用があってさ 」



無事の意味はきっと『生きる』という生命の方か、それとも存在としてなのかわからなくてゆるい返答だけれども皮肉として彼に返すと彼はそれに気付いたのか小さな声で笑ったような気がした



「 ふむ。まずは、そちらの話から聞こうか 」



まずは、興味の対象を重大な方へと移してもらう事にして、だ。



( エール、説明をお願いしていい? )
( はーい!任せてくださいっ )
( 私は入り口のほうを見張らせてもらうから )
( ああ。何かあったら俺を呼んでくれ )
( うん。頼りにさせてもらう )

11/0528.




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