久しぶりに踏み入れたその先は、あの時よりも心なしか薄暗く感じた。ぼんやりとした闇の中で見えるみんなの姿が少しお化けみたいというか、まだほんの少し生きている回路の光でさえもなんだか怖く思えて、口元が引きつる。天性のチキンというか、揺れる肩がまどろっこしい以前の問題でうっとおしい。なんなんだ!なんなんだ私!チキンにもほどがある!
「 まずはこれ…。ネズミを放そう 」
ガイの手の内で点滅するネズミの尻尾。ぼんやりとした暗闇の中で光っているからこそのうっすらとどこか穏やかに光っているそのオレンジ色すらも恐怖だ。自分のチキンさがこれほどまでにも嫌と感じることはなかなかないよね!そうだよね!なんかもう、ネズミとかどうでもいいから、って思うほど怖いんですけど。ここ何か出るって!おばけとかでちゃうって!
「 …行っちゃった 」
「 …ああ 」
3つの方向に分かれていってしまったネズミを目で追いかけていた三人を見ながら、私はそっとガイのベストに手を伸ばす。なんかつかんでないとここから逃げ出したいというか、お化け怖いって言うか、薄暗いの得意じゃないって言うか、その、ね。あの、まあ、無理!
「 …でも、どうやって知らせてくれるのかな? 」
「 いや、それは説明が無かったな 」
「 じゃあ、ネズミロボを見つける事から始めようよ 」
にっこりと笑ってこちらをみたカノンノの笑顔はとても、幼少期の純粋さを思い出させてくれました
「 故障箇所がわかるのなら、それだけでもありがたいじゃない 」
まっすぐにそう言うカノンノの隣で未だに光を追いかけているように、ぼんやりとネズミの向かった先を見つめるエール。私はガイのベストをぎゅうっとつまんだまま、引きつってしまいそうなその口元を和らげるようにもう一つの手で頬をつまむ。つまんだ頬が揺れるなんて、どれほど指震えてるの?!あああ!本当にチキンって理由だけじゃすまないよ、これじゃあ諦めのつかないチキンだよ!
「 そうだな、カノンノの言うとおりだ。さっそくネズミ探しと行こうじゃないか 」
「 い、行くんですか… 」
「 ああ。故障してるなら直してやらないとな 」
「 ほ、本気ッスか… 」
「 どうしたんだ?なんだか、いつもより元気が無いみたいだが 」
お化けが出そうで怖いとか言ったら、多分呆れられるんだろうか。いやいや、私としてはお化けと蜘蛛と黒光りするあの生き物は同類だから、同じランクだからもう怖いとか通り越して恐怖でもすまないほどの、いやああああ思い返すだけでもいやああああ!
「 元気というか生気が吸い取られてるような気持ちなんです… 」
「 お、おねえちゃん… 」
「 エール… 」
こんな情けない姿を見せてしまって、ごめんね。エール。
「 だ、大丈夫だよ!おばけなんてでないよ! 」
「 言ってないのに意志共通した!以心伝心してる! 」
「 浅葱、幽霊が苦手なのか? 」
「 あ、あはは、あは、はは…は、は… 」
苦手って言うか、もう怖いんです。なんて素直に言えないし、どうしよう。でも平気とかいったらこのベストから手を離さなくちゃいけないんだろうなあ。いや、でも、そんな事をしてしまったら私ここから動きたくないって言うか、もう船に還してくださいお願いします。もう本気で何でもしますから。なんて私言い出しそうだからせめてこの手を指をこのベストから離さなくていい方法を考えなくては、
「 手を貸しましょうか、お嬢さん 」
「 …え、あ、 」
「 怖いんだろう? 」
「 お、おねがいし、ます 」
ベストからゆるくほどかれる指が、からめとられる。グローブのせいで、ゴツゴツしてるとかそんなのはわからないけれど。どこかほんのり暖かな感じがして
ちょっとだけ勇気をもらった( もう一度、もう一度ニアタと話が出来るのなら。言わなきゃ… )
( そんなカノンノの声を聞きながら、 )
( 私は、震える指を握ってもらいながら )
( 前へ、足を出す )
11/0521.
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