その下をスポンジでなぞるように肌色を足していく。日に日に薄れていく私の体。ディセンダーの顔色が悪くなる事と比例するように悪くなって、薄れてしまう私の色を誤魔化すように何度も何度も健康色に塗りなおす。頬に赤みを入れたり隈を薄くする事でいつもどおりに見えるのならばそれはきっと、『いつもどおり』の自分を手に入れられると思うから



「 お化粧してるんだ 」

「 するよ?そりゃ一応女だし、偽りたい部分は沢山あるからね! 」

「 そうだけど、いつもはもっと軽いじゃない。なにかあったの? 」



結構鋭いじゃないか、カノンノ。でも、お姉さんはその程度でめげたりはしないんだぜ。そんなに綺麗な目で見られたってお姉さんは屈したりしないんだから!でも、何かあったのかって聞かれると不思議と答えにくいものがあるような気がする。何もないわけじゃないけれど、私がしっかり化粧をするのが変なんだろうか。結構、普通にやってたつもりなんだけどなあ



「 いーや。なんにもないけど、時間があったから睫毛もながーくしたんだけど変? 」

「 ううん。綺麗だけど、 」



妙に引っかかるような、声



「 なんだか、どこかに行っちゃうような気がして 」



その声が体中を駆け巡るみたいで、なんて音にしたら、なんて形にすれば良いのかわからなくて、わかんなくて。俯きそうになる顔を上げたまま、上手く笑えない顔をゆがめようとした。笑って誤魔化してしまおうとしたのに、



「 どこにも、いかないよ 」

「 そう、だよね。ずっと私やエールお姉ちゃんだもの、どこにも、 」



どこにも、いけないんだ。
そう『もう一人の私』が気持ち悪いほどの嗚咽感を体の奥から押し上げてくる



「 どこにもいかないで。ずっと、一緒にいられるよね 」

「 … 」

「 この船で、一緒にすごせるんだよね? 」

「 … 」

「 抱きしめて、手をつないで、頭撫でてくれるんでしょう? 」



そうやって、一緒にいられたらきっと幸せなんだろう。
一緒にいられたら、楽しいんだとわかっているのに。その言葉に頷く事も返事を返してあげることの出来ない私はきっと、



「 悪いお姉ちゃんでごめんね 」



一緒にいられなくて、一緒にいてあげることが出来なくて。



「 ごめんなさい 」



ずっと、なんて出来ないと。一生も無理だと、わかっているからこそ、いつかこの船の皆にも言わなくちゃいけないことがあるんだろう。きっと、言う前に、言い出す前に私の事なんて



「 いやだよ 」

「 …カノンノ、 」

「 いやだよ。いなくなるなんて、いやだよ。エールも、貴女も、 」



忘れてくれれば、カノンノはこんな顔をして泣かなくてすんだんだろうか。
今は、ニアタのことでいっぱいいっぱいなはずなのに



「 ずっと、一緒にいて… 」



すがるみたいに、私の手をぎゅうっと握って呟いた声。その手の温度が妙に暖かい気がして少しだけ、握り返すのを戸惑う。弱弱しく、指を曲げて触れたその手はやっぱり私より暖かくて。その願いを知りながら、叶えられないことをわかっていながらも



( 私の指の弱さを感じて強くなるその手 )
( どうして、いつもみたいに『なんでもない』『大丈夫だよ』といえなかったのか )
( もしも、嘘をつけなくなってきたせいだとしたら、 )
( それは私の『弱さ』なんだろう )

11/0506.




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