「 お姉ちゃん 」
「 んー? 」
「 恋ってなあに? 」
カラン、とコーヒーに落ちていった小さなスプーンの音だけが耳に残る。頭の中にはまるでスクリーンに表示された『こいってなあに』の文字が幾つも並んでいて、いやいや、まだこの子が恋とか、いや、でも、女の子問わず男の子だって恋するのは早いだろうし、恋を教えて恋に恋しちゃったらそれは私のせいなんだろうか。でも、恋に憧れる女の子だって、まあ…悪いものじゃあないんだ。でも、でも、エールに彼氏なんて、
「 …淡水魚で、体調が60cmくらいの 」
「 ちょーっとまったあああ!!それって違うでしょうよ!聞いてる事はそっちじゃなくて感情だから!感情のほう! 」
「 そうよ!エールがいつかだれかのところにお嫁さんにいくことを拒んでそんな事言ってるのね!あたしにはわかるんだから! 」
「 お前らに可愛い娘を持ったおねえちゃんの気持ちがわかるのかああああ!! 」
誰が嫁になど行かせるものか。こんなにも愛でて愛でて愛でて育てた可愛い可愛い可愛い、LVが以上に育ってしまった愛しのエールを、妹を、お姉ちゃんが手放せると思ったら間違いだ。今でもエールのくれたものは宝物過ぎて、四葉のクローバーも枯れるのがこわくてしおりにしたというのに…!
「 お、おねえちゃん? 」
「 だいすきだよ! 」
「 わたしもだいすきだよ! 」
「 それで納得しようとしたって無駄なんだから!ちゃんとエールに恋を教えなさいよ! 」
「 教えようとしたじゃないか、鯉を 」
「 ややこしいこと言わないの!! 」
ややこしいっていわれてしまった。なんだかショックだ。
「 …ルビアの言ってる方は難しいよ。本人がそういう風になってみないとこればっかりは個人差ってあるし 」
「 いいんじゃねえのか?お前の知ってるやつで 」
「 ユーリ、 」
「 っていうか、俺様そっちのほうがききたいなあ? 」
「 ゼロスまで… 」
余計な事をいいやがって。あれか、女性の生々しい恋の話に興味を持ってどうするんだ。誰にだってある感情を、幼少期すぎて若気の至りと自分のことを思う人だっているだろうにそんな事を掘り起こそうとばかりになんて話の振りなんだろう。それにこんな場所で過去の恥ずかしい話をしなくてはいけないんだ。くそう、いやだ。いやだぞ、私は!
「 おねえちゃんの知ってる恋のおはなしききたいな? 」
「 …う、 」
「 おねえちゃん、 」
「 あ、う 」
なんでこんなにも自分の子に弱いんだろう、私
「 恋はね、 」
「 うん 」
「 最も美しくて苦しい感情だよ 」
そっと触れたその髪を撫でながら、ゆったりとした口調で歌をつむぐように吐き出すと周りの騒ぎ立てていた人達がしずまった。あれ?私変な事いったんだろうか。大事な事を言ったつもりだったのになんで、急に静かになったんだろう?
「 一番欲が尽きない感情。欲しがって、ほしがって、そのくせとても傷つく事がある。誰もがいつか知る、特別な感情の一つってことを覚えていて欲しいな 」
「 とく、べつ 」
「 うん。ただ恋は一度自分を騙してしまえば、相手を騙し続けなくちゃいけないから嘘はつかないような恋をしないとね 」
恋した人に嘘をつかない人などきっといないんだろうけれど、度の過ぎたものはきっと自分を苦しめてしまう事をいつか知るんだろう
「 それがエールの知らない愛につながることをお姉ちゃんは知って欲しいなあ 」
「 あい 」
「 そう、愛 」
視線をあわせるためにすこし屈んで、その真っ直ぐな純粋な瞳を見つめて微笑む。私にとって宝物のような君の事だから。私に似て、そんな事を知らなくてもいいと思ってしまうだろうから。どうか、どうか覚えていて欲しい。
「 恋は、素敵なものなんだよ 」
そっと、君の髪に触れて口ずさむような音は
驚くほど穏やかな声が響いた( まさに負と隣り合わせ )
( 君たちみたいだね、とは言えなかったけれど )
( 恋を知る日を夢見て、そっと笑みを浮かべる )
11/0505.
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