今日はいい天気だから洗濯物が良く渇きそうだね。そういった誰かの声が耳を掠める。最近ではどの程度干したら海風であんまり痛まずにすむのかまでを考えはじめていた食堂組と手伝い組と一緒にタオルを干していたんだけれども。それに干すのも長々とやっていると流石に自分達の髪の毛も痛むという乙女話に花が咲いてははしゃぐ10代の女の子達を横目に一息、ふうっと吐き出すと胸のうちですっと薄れるもや



「 浅葱さん? 」

「 …、ん? 」

「 珍しく、思い悩んでいるみたいでおばさんは気になるのだけれど 」

「 思い悩んでいる、のかなあ 」



最近皆が私の事を忘れる事もなんとか心の痛みを顔に出さなくてすむようになったし、あまり問題は無いとは思っていたんだけれども。まさかそんな風に見えるような顔をしていたとは思わなかった。やっぱり悩んでいるとしたらゲーデのこととかだろうか。それとも、思ったよりも顔色が悪くなってきているエールのことなんだろうか。もうどっちが大事かなんて決められなくて、両方が両方私の頭の中で文句を吐き出していそうだ。



「 エールさんのこと? 」

「 それも…そう、だけど…まあ、ゲーデも 」

「 ゲーデ、って…あの、 」

「 うん。パニールの思ってる子。皆は倒すだとか、消そうとか、そういう考えをしているのはここにいてわかるけれど、問題の解決方法はそうじゃないような気がするんだよ 」



本当に例えばの話。
ゲーデがエールとこの世界で一緒に手を繋いで生きていけるのだとしたら、私はこの話をハッピーエンドじゃなくてもいいと思っているから。バットエンドでも二人が一緒にいられればそれはきっと、大きな幸せにはならなくても、ささやかな小さな、おだやかな幸せなんじゃないんだろうか



「 子供向けというか、幼児に向けてのお話っていつもハッピーエンドだけれどそうじゃなくてもいい気がして 」

「 なら、バットエンドでもいいという事ですか? 」

「 バットエンドが必ずしも悪いとは限らないもの 」

「 …そう、ですかね 」

「 ハッピーエンドは皆がみーんな幸せになること。バットエンドは、誰も幸せにはならない。か、一時的な幸せ、そして背負うものがあるって事があると思うんだ 」



その背負うものが負、だったり。ゲーデだったり。
きっと人それぞれ違うものなんだろうけれども



「 背負う、もの 」

「 どんな形であれ、どんな気持ちであれ。その物語を物語として、思い出として終わらせてしまえばきっと何度も繰り返す。ループしてしまう 」

「 でも、ずっと背負い続けるわけには、 」

「 背負い方は人それぞれだから、苦でもあり、楽でもある。どっちとも取れないものが形なのか違うのかも、人には見えないものを背負う事もあるとは思うんだ 」



嘘を背負うか、負を背負うか。人それぞれだ。結婚も似たようなものがあるから私は今がいっぱいいっぱいで恋やらなにやらではしゃげたりはしないのだけれども。それでもきっと、私はこの物語を『ただの物語』では終わらせたくない。ただの我侭だって皆には思われるだろうからそっと心のうちにしまいこんで



「 パニール、 」

「 はい 」

「 ここで家族になれたって事はきっと意味があると思う? 」



話をそらすように私が吐き出した言葉にパニールがゆっくりと頷く。



「 ありますよ 」



私の待っていた言葉を読み取ったかのように帰ってきたその言葉に私はそのまま心の中の言葉に鍵をかけた。本来いないはずの私がここにいるという事は、ここで家族に慣れたという事は、この場所で『お姉ちゃん』になれたという意味は



「 お姉ちゃんは『妹』や『弟』の見本にならないといけないし、時には手を引いてあげなくてはいけませんからね 」

「 そうだね、手を引いてあげないと 」



手を引いてあげる事なんだと思う。もしかしたら間に立って手を繋いであげる事なのかもしれない。エールとゲーデの間に立って手をつなぐ事だとすればもっと素敵な事で、ほんの少しだけ幸せな気持ちが広がって口元が緩む。



「 お姉さんの役目も大変でしょうけれど、たまには休む事も大事ですよ 」

「 ありがとう。適度には休んでるから、パニールは可愛い娘の事を心配しないと! 」

「 あらあら。私にとってはあなたも大事で可愛い娘なのに 」

「 や、やだなあ、照れるじゃないか 」



新しい息子を連れてきたらパニールはどう思うだろうか。いや、きっとこの人のことだから温かく迎え入れてくれるだろう。私もさんざんその暖かさに甘えて育ってしまったような、ずっと昔から育ててくれているような気がして、



( そして私は彼に振り払われた手を )
( どうやって伸ばせばいいのか )
( そう思うだけで、また胸がきゅうっとする )

11/0423.




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