「 くっ!なんて不愉快な戦いだ! 」



剣先を鞘へ入れたとたん、クロエがそう呟くように吐いた。確かに自分達の一部と戦うというのはあんまりいいものじゃないのかもしれない。でも、きっとあんな風になってしまえば人ではないから、負という生き物の一部ということになってしまうのかもしれないけれども確かに、後味が悪い戦いのようで武器をしまう時ですら、腕がゾクゾクして気持ち悪い



「 負の測定カウンターの数値がかなり減りました 」

「 ゲーデと今の魔物が消えたからだろう 」



ミントが測定カウンターの白い箱式の蓋である、画面のカウンターを見ながら下のほうのボタンを少し触れて解析していた。多分、確実にあとでハロルドのサンプル情報になるんだろうけれど、あの天才科学者はお得な事をするというか、情報を集める方法に貪欲なのかもしれない。だから成功するんだろう。一応人体実験は加減ついてるしな…



「 それより、ここが指示された祠の場所のようだ。ミント、どっちかわかるか? 」



ミントがパチン、と蓋を閉じてから左右にある祠を見比べると右の祠へ歩いていき、ゆっくりと足を止めた。ほとんど凹凸のないマークのようなものをじいっと見て、縦に頷く。どうやら右の祠が正解のようです。



「 こちらです。かすれて見えにくくなっていますが、『火』を表す古代文字が記されています 」

「 じゃあ、そこにキメラ・クラスターをおけばいいんだね 」

「 はい。おねがいします 」



祠に近づいて、ゆっくりとキメラクラスターを置いたエールがじいっとその様子を見つめていた。どこか眠たそうに瞬きをしながら、見ているその表情はここにきてからすうっと青ざめたように白すぎる。まずい、確かこの後、何があった?風呂掃除の途中だったらからお風呂用洗剤の匂いが体から立ち込めてて、記憶の邪魔をするんですけど!



「 あかい、ひかり 」



誰かが呟いた声に顔を上げると祠が微妙に光をまとい、小さな、まるで生きているような赤い光がふわふわとキメラ・クラスターへと近づいてくる。ろうそくの灯りのような、ほそぼそとしていて、それでいて暖かな赤みが宝石に近づいて、灯る



「 採取、出来たようだな 」

「 さあ、戻りましょう。これで、世界樹が回復するのなら… 」



このあと、何かあったはずだ。だけど、一体何が、あ



「 エールさん、どうかされました? 」

「 肩を貸そう。船までの辛抱だ 」

「 私がおぶるよ 」

「 だけど、浅葱さんも顔色が、 」

「 大丈夫。それは元から 」



めまいを起こしたように膝を突いたエールが私の声が聞こえたのが首を横に降った。大丈夫、少ししたらすぐに歩けるよ。ってぼんやりと終点のあわないエールの視線が私を探している。だけど、そんなわがままをお姉ちゃんは聞く事ができない事くらい、わかっているでしょう?エール



「 背中に乗せるのを手伝って、クロエ 」

「 だ、だが、エールが、 」

「 たまには肉体的甘えも教えてあげないと、 」

「 お姉ちゃん、そんな事したらお姉ちゃんが疲れちゃう、から 」

「 そうだ、浅葱が 」

「 はいはい、いいから乗せる!女の子一人おぶれなくておねえちゃんなんてやってられっかー! 」

「 辛くなったらすぐに言うんだぞ。いいか、今約束したからな! 」

「 クロエってば心配性だなあ 」



私が昔クロエをお姫様抱っこして部屋まで連れて行ったことを忘れてしまったんだろうか。あの王子役は結構自分、配役だったらすごく上手く出来たような自信があるんだけれども。やっぱりクロエが気に入らなかったんじゃあ、隙を狙ってまた今度やるしかないな。どんなシチュエーションにしようかなあ



「 あの時のは、おねえちゃんのせなか、だったのかな 」



そういえば、



「 あったかい 」



君を前にもこんな風におんぶした事があった。思い出しても懐かしいくすぐったい大切な記憶。心が穏やかになるような思い出は、君がくれた宝物だから大切で大事だと一度も君に伝えていないはずだ。いつか言おう、言おうと思っていて忘れてしまうほどに、



( 初めて会ったとき、君をおぶった事を )
( 知らないと思っていたのに、君は覚えていてくれた )
( 嬉しいようで、少しだけくすぐったい思い出 )

11/0417.




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