ジワジワとはいでるような黒い霧に、ミントが小さな声を上げた。ゲーデの後ろでまとまっていくその黒い影からいつか見た赤い目が見えて、暗い光をまといながらこちらを見据えている。ゲーデはクロエやミントの戸惑いの反応を見て私とエールを見たが、ゲーデの表情は少しきょとんとしていた。確かあの負の生き物は、フィアブロンクだかプロンクだったか、ううん…ウーパールーパーみたいな顔が可愛らしいなあ



「 コイツが何かわかるか?おまえ達だったものだよ 」

「 わたしたち、って…? 」

「 おまえ達の負が、姿を持ってこうなったんだよ 」



誰よりも負を嫌っているのは、きっとゲーデなんじゃないのかって何度も何度もこの台詞で思ってしまう私は、お人よしなんだろうか。孤独を孤独として受け止めてしまう人はなかなか少ないだろう。大体は、その孤独を埋めるように代用を作ったりする。それと同じように、ゲーデは自分の孤独や自分自身を嫌っていることを、人に突きつけるように



「 コイツはおまえ達を憎んでいる。まっとうな生命として生きる事も許さず、追い払おうとするおまえ達に対してな 」



自分に、ではなく他人に。
自分心にでなく、他人の心に



「 ただ、恨みのみを原動力として動いているんだ 」



憎しみや恨みを向けているとしたら。お姉ちゃんはきっと君にたくさんのことを教えてあげなくてはいけないんだろう。それとも、君のお姉ちゃんに教えてもらった方がいいんだったら、ちゃんとエールに『孤独』という大切な感情を伝えておかなくてはいけないや。いつなら、時間が空くかなあ



「 みにくいか?おぞましいか?それがお前たちの生んだ負だ 」



いや、だからその負の形はウーパールーパーみたいですごく可愛いんですけれども。伽藍の洞みたいな目はまあ、ちょっといただけないけれども顔の形とかなんだか見慣れr手来ればちょっとしてゴールデンレトリバーみたいにも…おお、愛らしく思えてきた!



「 さて、他にもお返しをしてこないとな…。もっと、こいつらをばらまいてやるさ 」

「 ゲーデ、だめだよ!そんなことしたら、 」

「 おまえ達も苦しめよ…。俺と同じだけ、苦しめばいい!! 」



くるしめ、なんてあんまりにも寂しい事を言うものだから、胸が痛い。ぎゅうっと締めつけられるみたいで目元がじわじわと歪んできてしまう



「 自分達の負に食い殺されてしまえ!ハハハハハ!! 」



誰かと同じ『苦しみ』なんてものはどこにも存在しないのに。わかろうとしてもわかってあげられない。その苦しみは、自分だけのもの、自分にしかわかりえないもの。それを、



「 誰にも押し付けられない事も、知らないんだな 」

「 おねえちゃん?押し付けるって、どういう 」

「 それはあとでね。今は、この子を何とかしてあげないと 」



帰るまでにちゃんと言葉をまとめておこう。誰もが知っていて知らない事であって、皆が大切にしなくてはいけないお話をこの子に伝えておけば、また誰かへと紡いで言ってくれるはずだから。孤独とは、痛みとは、苦しみとは、全部共通していることを



「 倒さねば、目的は達成できない。行くぞ、エール! 」

「 あ、う、うん! 」

「 ミントは支援を頼みます。クロエ、前出るぞ! 」

「 ああ。回避を忘れるな、浅葱! 」

「 さ、サイド?バック?両方上手く出来ないからいざとなったら、力を解放する! 」

「 ………心配だ 」



誰しもが抱えるべき、大切なものだという事を



( お、お姉ちゃん!それ火吐くよ!? )
( え!?嘘!本当に、吐くの!?見たい! )
( 馬鹿者が!吐かれたら危ないだろう!! )
( いや、夢とロマンが、 )
( そんなものここで求めるな! )

11/0417.




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