デッキブラシに捲り上げたジャージのズボン。髪を無造作に纏め上げてせっせと腰をいれて仕事をしていたらその現場を見事に見られてしまっていた。それも、ジェイドに。あの鬼畜腹黒赤目眼鏡に、だ。もう世間体が終わってしまったかもしれない。こんな中途半端な姿を見られた上であいつが私をけしかけないはずがないのだ。この間の指相撲といい、あいつ鬼だな!本当に鬼畜というべきか、タイミングの悪さはこの船で一番だ



「 …ぷ、 」

「 … 」

「 何の罰ゲームですか? 」

「 もう黙れ!! 」



開門一言で黙れなんて今まで言った事無いのに言わなきゃいけないくらい追い込まれた気持ちだ。なにが罰ゲームだ、そんなものやるわけがないだろう!そもそも風邪を引いてから私の移動の制限をした貴様が私の仕事の幅が狭まった事くらいわかっているんだろうに…!悪だ、あいつが悪の塊だ!



「 酷いですねえ。今日は貴女に良い報告をしにきたのに 」

「 …良い報告? 」

「 もう外の仕事に向かってもいいですよ 」

「 …外、って、甲板だろ 」



もう二度とコイツの意地悪に引っかかってやるものか。



「 違いますよ。この船の外、という意味だったんですが… 」

「 え 」

「 本人に出る気が無いのなら、まあいいでしょう。そう船長にも報告させていただきま 」

「 いきます、いきたいです。出させてください、お願いします 」



人間をそう簡単に疑っちゃいけないよね!例え普段が悪い奴だとしても実は物凄くいいやつかもしれないし、普段が悪くてもこういうときに物凄くいい奴になるかもしれないんだから。ああ、本当に疑うだなんて私悪い子だなあ。風邪引いたのも自分のせいだし、この鬼畜眼鏡は本当に何も悪くないんだから!はやとちりしてしまったよ、ガイ並に



「 では、ミントとクロエ、それとエールと一緒に火山へお願いしますね 」

「 …うん? 」

「 さすがにガレットだと寒すぎるかと思って考慮した結果ですので、存分に壁になってきてください 」



火山?壁?一体何の話だ?
いや、でもメンバー的に聞き覚えというかやった覚えがあるような…



「 体に10以上の怪我をするとエールが泣く事は頭に入っていますか? 」

「 え、いや、あの… 」

「 火山ですよ 」

「 あ、ああ、火山ね、火山 」



いやもう、火山はどうでもいいんだよ。火山に行くことは良くわかったから。いかなくちゃいけない事はよくわかってはいるんだからそこは大した問題じゃない。大した問題ではないんだ。壁とかはいつもどおりだし、病み上がりにはきついなんて吐いたら、この船から出るチャンスがなくなってしまう



「 壁になるんですよ。傷つかないように体を張ってください 」

「 いやいやいやいや、そこがおかしい!傷つかないように壁って何?! 」

「 ユーリみたいに頑張れば大丈夫ですよ 」

「 無理無理無理。私、ユーリにはなれないよ! 」



あの技のスピードとキレは無いよ?!クロエとかに訓練頼んだ時も技の遅さで後悔したんだ。木刀で良かったとは思うけれど大分痛いめにあってから自分の技の遅さは理解の域を達成しているんだから、ユーリみたいにあんなキレのいい技の繋ぎ方とかできないよ!あれの何倍遅い事か…!今、生き残っている事が奇跡なくらいなんだから、もう!



「 じゃあ、妥協してガイでも構いません 」

「 妥協しても、ガイは自分で回復できるじゃないか!燃費はクロエに比べると少し悪いけれど彼は彼の特性が…、ってジェイド、お前まさかガイやユーリを壁だと認識している訳じゃ…! 」

「 おや、違うんですか? 」

「 役割は似ているけれどそれは酷いと思うんだ 」

「 では、肉壁にしましょう 」

「 生々しいわ! 」



むしろ、怖すぎる。間違ってないよ、色んな意味であってはいるんだけれどそれだったら盾とかの方がかっこいいじゃないか。体を張って術者たちのために立ち回る彼らに対してなんて酷い扱いをしているんだ。少なくとも体を張ってもらっている立場も少しくらいはわかっているだろうに…いや、必要ないのか。この鬼畜眼鏡には



「 まあ、頑張ってください 」

「 まあってなに!?なにそのなげやり! 」

「 これ以上、ここにいると辛いので 」

「 それって笑うって意味だな!そうなんだな! 」



お風呂掃除の定番の格好なんて想像つかなかったから手を抜いてしまったのがいけないんだろうか。いや、でも、仕方が無い。仕方が無いんだ。まさか女性以外に誰か来るだなんて思わなかったわけだし…



( いつ出発だって? )
( 30分後らしいですよ )
( …もっと早く言えええええええええ!! )

11/0412.




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