ふう、っとかすかに余った液体洗剤でシャボン玉を飛ばせばふわりと飛んではじけて消えた。パニールがもう出ないし、どうしようかと迷っていたのをそのまま貰ってきて水を注ぐのに10秒もかからなかった事を考えれば自分ってなんて行き急いでるんだろうなんて考えてしまう。やっぱり歳なのかなあ、それとも何か思い残しでもあるとすれば、この船に出てくる黒い虫についてだろうか。怖くて出会いたくは無いけれど



「 紙飛行機の次は、シャボン玉か 」



音も立てずに上がって落ちていくシャボン玉を見ていたその声に、首を回してみたけれどそこにはガイが苦笑しながら私を見ていた。子供っぽいとか想われる事はもう怖くは無い。エールと一緒にはしゃぐ事は大人なんて自分を捨てる事だ。子供視点で子供と遊ばないと楽しくないからね!



「 楽しいよ? 」

「 確かに楽しそうだが、その、 」

「 うん? 」

「 風邪はもういいのかい? 」

「 皆、同じこときくけれど…大丈夫だよ。治りました! 」



お腹をへこませながらふううう、と息を吐くとポポポポ、と出て行く泡の塊を目で追っては海に落ちて溶けていくその姿に目を細める。何を考えたのか、なんて考えるのも嫌になる事で、それでも口をつけたストローの先からは、また泡が飛んで、落ちていく



「 それに皆は、『風邪』って代名詞を使ってくるけれど、わかっている人達はきっと違う事をききたいんじゃない? 」

「 …ああ 」

「 でも、聞けないんだよね? 」

「 …なんでわかっちまうかな 」

「 聞いてしまった先客がいたから。私も気付かなかったけれど、この体 」



薄くなってるんだねえ、なんてのんびりした声を吐きながらまたストローに口をつけた。シャボン玉に実は意味があることに誰も気付かない。気付かないように自然な振りをしてギリギリまで洗剤を使った事も、誰も知らない。誰も、気付かないままで私はまた『ストローに口をつけた』



「 太陽の光に当たってると余計に、そう見えるよ 」

「 じゃあ、今度はベールでも買ってこよう。あ、でも余計聖職者みたいになるかもしれないけど… 」



落ち着かない、忙しないまま、また息を吐いて泡を飛ばす。口寂しくて煙草をすうみたいに、飴を食べるように。不安な気持ちを何かに依存させたくて噛むように『ストローを銜えた』。何度も、何度も、泡を飛ばしながら、唇にはさんだストローを柔らかく噛んで、ふざけたような口調でへらへらと笑みを作っては



「 何色が似合うかな 」

「 柔らかい色合いがいいだろうな 」

「 そう?そっか…じゃあ、今度また買い物に行かなきゃ 」



口から虚を吐いた。油断を吐いて、甘えてしまいそうな言葉が頭によぎるたびに、ストローの円が歪んでしまう。不安を抱えたまま、生きるためには誰かに頼らなくてはいけない。皆が誰しもそうかって聞かれると頷けないけれど、私はきっとそうなんだろう。でも、最後の最後に我侭ばっかり、泣き言ばっかりじゃカッコつかないから



「 ああ、そういえば洗剤もそうだった。あとでメモして、 」

「 浅葱 」

「 んー? 」

「 …君は、今 」



カッコつかないだろうから



「 何を求めているんだ? 」



その一番の答えは、やっぱりそっとしまっておこう。何を求めているのか、なんて欲しいものや事はきっと数え切れないほどあるし此処には、私がいるには問題が多すぎて目が回ってしまいそうだ。ぐるぐるぐるぐる。そんなところを見られてしまいたくないから、また息を吐く



「 この世界の人達の平穏を、あの子の幸せを 」

「 嘘はやめてくれ。俺は、君の、 」

「 嘘じゃないよ、ただ一番ではないだけで、二番目に思ってる事 」



本当に欲しいもの、はルークに聞かれたときと同じで。帰る方法だ。求めるものだと聞かれてしまったらそれは私にとってこの世界からの消滅以外の方法だと思う。消えてしまう事を誰が喜ぶんだろうか。皆の記憶から消えても構わないから、せめて



「 せめて、 」



体だけでも、この世界の平和の後のことだけでも知りたいと思うのに



( ガイは私になんて言おうとしてくれたのか )
( その言葉を、またもさえぎってしまったのは )
( きっと、彼の恋は続いているからなんだろう )

11/0411.




- ナノ -