広い世界の中で何人に自分が馬鹿にされるんだろう、と考えたらどうでもよくなっていた。あの子が笑っていられればいいとか言いながら、誰が傷ついてもきっと笑いはしないのに。ただ目に映る白い世界の中で、あの小さな背が泣きながら私を呼んでいる気がした。
「 おねえちゃ 」
まるで世界がゆったりと動いているような感覚すらを思う。あの子が直接私に話しかけているわけではないけれど確かに「ごめんなさい」と呟く声。泣着すぎてかすれたような声がぼんやりと頭に響く。確かに、ゆっくりとごめんなさい、と呟く声が頭に直接伝わって、何処にいるのかも見当のつかないただ白い世界の中で私はぼんやりとあのときの服装のまま立っていた。
前後左右確認しても白の世界。影すらも出来ない場所であの子が泣いていると思うと息苦しい。
「 エール 」
いつもみたいに優しく名前を呼ぶと、頭への伝達が一瞬止まる。おいで、なんて気安く呼べはしないけれどにっこりと笑って泣き虫ディセンダーの声を待つ。
「 ごめんなさ、 」
「 エールは悪い事はしてないよ 」
「 お姉ちゃん、いう事、聞かなかった 」
「 エールはあの人と戦いたくなかっただけだもの。悪い事はしてない 」
たった一回では伝わらない言葉を何度も繰り返す。悪くない、貴女は悪くない。と、言うたびに悲しそうな嗚咽が聞こえて胸が痛んだ。自分を追い詰めて、追い詰めて一体何があるの?その先に終わりはあるの?終わりがないものは誰かが断ち切らなくちゃいけないのに、この子はきっと直接抱きしめないと話も聞いてくれないだろう
「 おねえちゃ、ん 」
「 誰も悪くない 」
「 うそ、 」
「 誰も悪い事はしてないんだよ。誰も、悪くない 」
「 うそ、うそ!わるい! 」
「 悪くない 」
誰も悪くない。そういえばすぐに否定するのは誰に似たんだか。そう思う言葉を飲み込んで自分が暴れださないようにゆっくりと呼吸を繰り返す
「 私は、こんな事で嘘はつかない 」
「 っ…! 」
だってもっと大きなことで嘘をついているんだからこのくらいのことで嘘をつく意味にはならない。嘘吐きにだって嘘をつく基準くらいあるんだからこんなことで嘘ばかりついていたら大事なところで嘘をついたら信じてもらえなくなるじゃないか。
「 エール、よく聞いて 」
「 …、 」
「 これは誰も悪くないの。彼も仲間を守りたかっただけだし、私が貴女の前に飛び出したのも、あなたが必死に彼を説得しようとしたのも無駄な戦いを止めさせたかっただけ 」
本当は此処にいれば抱きしめて、安心させて、言ってあげられるのに
「 誰も悪い事はしてないの 」
「 おねえちゃん、背中、 」
「 全然痛くないから、平気。それに彼もビックリしたみたいでとっても傷が浅かったよ 」
「 …ほん、と? 」
「 本当 」
だから、大丈夫。と柔らかな声を出せばエールの泣き声が、ゆっくりと止まる。本当は近くで笑った顔とかをみて安心したかったんだけれど、と息を吐くとエールがぽつりと言葉を吐き出した
「 いつ、 」
「 うん? 」
「 いつ、起きる? 」
「 もう少し寝たら 」
「 ねむい? 」
「 とーっても。だから、お姉ちゃんは寝て元気いっぱいになったら起きるから、待っててね 」
「 …うん 」
約束よ、と呟いた声がぼんやりと薄れる。
それは人の中を覗いたような( かすむ意識の中 )
( 泣きすぎた声で )
( おやすみなさい、が響く )
10/0824.
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