「 今から、ジャニスのところ行って来るね! 」
まだ体調が万全じゃないという事で参加させてもらえなかったキメラ・クラスターを借りてくる任務。正直、今でも行きたいけれど風邪で寝ている間に体力が落ちるに落ちてしまったようで、洗濯物を干すのも身体にがたが来るってもう歳なんだろうか。さほどそこまでな感じではなかったような気がするんだけれど、でも、熱が続いてたのもあるとすれば体力もあんまり回復してないのかなあ
「 いってらっしゃ…アッシュ、ジャニスのところ行くの? 」
「 …ああ 」
「 そう… 」
「 不満か 」
「 いや、エールの事をお願いします 」
あの子から目を離さないであげてください。なんていえなくて、少しだけ目でエールを追うとアッシュがほんの少しだけ、笑った気がして口元が緩む。こう見えて実はいい奴、なんて代名詞をつけたくなるくらいアッシュは面倒見が良い方だ。ただ短気なだけで
「 なんだ 」
「 うーん、まあ、アッシュなら頼めるなあって思っただけだよ 」
「 ! 」
「 うん? 」
「 いいから、お前は自分の体の心配でもしてろ! 」
赤い髪を揺らしながら目をそらしたその姿に微笑むと、アッシュが複雑そうに眉間に皺を寄せながら「クズが」と呟いた。自分の感情にある意味素直で上手く表せないところを考えると、物凄くこのギャップが愛らしいのかもしれない。それにここにはいないナタリアの前では、すごくカッコイイ所もあるから本当にいい男に育ってくれてなんだか嬉しいような、悲しいような…
「 何、ヘラヘラしてやがる 」
「 ううん 」
「 アホ面さらして楽しいのか? 」
「 若いのに眉間にしわ寄せて楽しいかい? 」
流石に今のは聞き捨てならんぞ。いくらアッシュでもこういうときはしっかりと私もソフトな暴言を吐かせていただろう。あんまり汚い言葉吐いてると気分が悪くなるしね。でもね、アッシュのクズ発言は意味がわかってくると愛らしいというか、すごく可愛いんだよねえ
「 お前もしわの後あるぞ 」
「 …お前女性にしわとかいってんじゃねえぞ! 」
「 ………眉間にしわの後しかついてねえな 」
「 アッシュ 」
「 あ? 」
「 お口、
何針縫いたい? 」
プチ裁縫キットを腰のポーチから取り出しつつ、そう口にすればアッシュが一歩さがる。もちろん逃がすつもりなど毛頭にない私は、じわじわと袖に沢山の洗濯バサミをつけながらジャラジャラと前進して追い詰めていくと、アッシュから焦ったような声が聞こえてくる気がした。でも気だから、してないのかもしれない。もういっそ縫ってしまおうか
「 はーい、そこまでー 」
「 あ? 」
「 なんだよ、ゼロス。赤い髪仲間を助けるつもりか? 」
「 別に?そうじゃなくて、浅葱ちゃん、まだ病人なんだから寝てないと 」
「 いやいやいやいやいやいやいやいやいや、無理 」
「 無理じゃなくて、寝といて 」
「 いやいや、あ、ちょ、アッシュってば、なんで先に、 」
「 はいはい、アッシュくんも行っちゃった訳だし、浅葱ちゃんベットに戻って 」
袖から外されていく洗濯バサミと、潮風に揺れる赤い髪。
「 風邪、ぶり返したら心配するし 」
「 …、 」
「 浅葱ちゃんのつらそうな顔、結構きついんだよね〜 」
「 ゼロス? 」
「 だからさ、 」
綺麗な顔が、わずかに歪んで震えて見えた、その姿にゆっくり瞬きをすればいつもと違うその表情に声が出ない。それはあまりにも悲痛と、どこか愛しさが見えて。アッシュとは違うその愛しさと鼻を掠めるいい匂いが頭の奥をじわりじわりと侵していくようで
「 『忘れてしまうんだろうから』なんて気安く言わないでくれよ 」
「 でも、 」
「 浅葱を忘れるなんてできるわけ、ないだろーが… 」
逃げ出してしまいたかった。
胃のおくからジワジワ這い上がる罪悪感に、全部全部逃げ出したくて
「 ごめん、なさい 」
子供のように口に出した答えは( 逃げるように吐き出した言葉 )
( 振り払うようにすり抜けた彼の横 )
( 彼の本心は、あまりにも胸に痛む )
11/0409.
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