「 うー…づらい、 」



本気で風邪を引いてしまったらしい。メスカル山脈の時にはいなかった鼻づまりまでおきてしまってついには呼吸もしにくいし、これじゃあエールの様子も見にいけやしない。さらには大人しく寝ていろとのことで暇つぶしの本やらなにやらとジェイドに奪いとられてしまい、残ったのは紙とペン、それと冷やされたタオルくらいなものだ。くそ、もう風邪引いてる時に海におちてやるもんか…!



「 あらあら、大人しく寝ていなきゃだめだって言われていたじゃありませんか 」

「 やっほー、パニール… 」

「 卵粥を作りましたけれど、食べられそうですか? 」

「 うん…おなかだけはすいてる… 」



小さな土鍋をお盆で運んできたパニールを見ながら、また鼻を鳴らす。おいしそうな匂いが鼻先を掠める中で、扉をコンコンと指先でノックするような音にパニールが返事をすると開いた先にいたのは、いつものメンバーで。思わず、



「 風邪がうつる、帰れ 」

「 さっきまで弱ってらしたのに、人が来ると変わるのね 」

「 風邪なんてうつして治すなんて外道だよ、邪道だよ、悪だね、悪。だから、うつらないうちに部屋から出ないと風邪引くよ 」

「 …まあ、そういうなって 」

「 一応様子を見に来ただけなんだが、 」

「 顔真っ赤にしちゃって辛そうだねえ 」



吐いてしまった暴言を気にせずに簡易椅子に腰掛けたメンバーを横目で見ると、パニールがニコニコと穏やかに笑っていた。私としては彼らが風邪を引いてしまうと心配する人が沢山いるって事に気付いて欲しいんだけれども。気付いた上でもう部屋から出て行って欲しい。皆に心配かけさせて何が楽しいんだお前ら



「 大丈夫そうだなァ 」

「 …死ぬほど辛い訳じゃないから大丈夫だよ。ただ、 」

「 あ? 」

「 ただ、ジェイドに読みかけの本を奪われた事が何よりも屈辱的だ!ずっと寝続けられるか!読ませろ!退屈潰しの本を返せ! 」

「 …欲望の固まりだな 」

「 風邪引いて寂しくなるかと思ってきたのに 」



寂しいよりも眠れなくて体がだるいのが問題だ。それにおなかすいた。卵粥がすぐに食べられるように準備してくれたパニールはさっそうと出て行き、ついにこの4人の前でもくもくと食事をする事になってしまったんだけれども、正直に言えば汗でひどいことになっている状態を見られるというのは、恥ずかしいんですが、くそう、出て行ってくれないかなあ…



「 浅葱、食えねえのか? 」

「 たべれっくしゅん! 」

「 ………はい、あーん 」

「 ゼロス、やめてくれ、私は一人で大丈夫だから、 」

「 はい、口あけてー 」

「 …う、あ、 」



ぱくん、と閉じると口から引き抜かれる。よくできたました、とばかりに頭を撫でられて、私は何と言うか複雑のような恥ずかしいような気持ちでいっぱいなんですけれどもなんで看病されているんだ私!はやくご飯食べて薬飲んで、無理やり寝た振りでも…



「 …浅葱ちゃんに餌付けってなんだか、癒される 」

「 …今相当目つきが悪いと思うけどね 」

「 浅葱。食べた方がいいぞ? 」

「 わかってるけど、なんで餌付けした後になんで皆、頭撫でてくるんだ…! 」



皆どこか嬉しそうな顔で撫でてくるからなんか反抗しにくいんですけれど、よく食べられたなーとばかりに穏やかな顔つきでそんな事言うから何だか反抗もしにくい



「 なんかこんなに大人しいと持って帰りたくなるなあ 」

「 その時が、ゼロスの最後だと思うよ 」

「 ああ…旦那も容赦しないだろうと俺も思うけれど 」

「 珍しい動物が懐いたみてェな感じがすンだよ 」

「 ………ま、まさかユーリも 」

「 いや、オレはお前が懐いたみたいで気分はいいけど 」

「 …どっちにしろ、餌付けされて喜んでる動物扱いじゃないか! 」



もくもくと食べ続けるのがだんだん悲しくなってきたよ。皆は変わらずに私の頭を撫でて嬉しそうにしているとゼロスは私に餌付けしながらも観察している気がするし、不満だ。なんと言えばいいのかわからないこの不満をどこに投げつければいいんだ…!



「 浅葱ちゃん 」

「 …なに、 」

「 もしかして、照れてる? 」

「 うるさい、だまれ! 」



口を動かし終わって、薬を水で無理やり流し込むと布団をひっぱって丸くなる。こうしていれば観察も出来まい。早く部屋から出て行かないと本当に風邪引くだろうし、何よりもこの姿をあまり見ていて欲しくは無いのに!早く、早く、この部屋から、出て行ってくれる方法は、



「 よし、じゃあ、部屋でも散策するか 」

「 そこの若草!それは同性が同性の部屋に来たときのイベントだろうが! 」

「 … 」

「 … 」

「 … 」

「 … 」

「 ………大人しく寝かせてください 」



( 流石というべきだったな )
( 今の突っ込みは本当に流石だったぞ )
( 浅葱ちゃんらしいねえ )
( つーか、なんで起き上がって突っ込ンだのか気になるだろ )
( い、勢いです )

11/0402.




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