「 誰かいるわ… 」
そう言って目を細めたティアにエールが首をかしげて、まっすぐとその影へ近づく。緑のマントの上にある水色のウェーブのかかった髪の毛が風の強さに負けて揺れ、私達の足音にゆっくりと振り返る…バルバトス・ゲーティア。彼の目に映ったのは、エールの髪色。その色さえも歪むように細まっていく彼の瞳は、
「 ほぅ…。おまえのその目、見覚えがあるな… 」
楽しげに、かつ何かを求めるように歪んでしまう。口角が上がるどころか、身体を少しずつ震わせ。喜びに耐えるような表情で、エールを見て、エールがゆっくりと武器に手を伸ばした
「 忘れもしない…"ヤツ"と同じあの目だ… 」
「 ヤツ…? 」
「 フフ、フハハハハハ…血がたぎる… 」
エールの言葉など耳にはいらないとばかりに、拳をつくって振るわせる。ずっと強いものを探し続けていた彼が見つけた光をまとう者に、すぐにでもその大きな斧を振り下ろす勢いで笑い続けるバルバトスにリオンの眉間にしわがよっていく。ティアも心なしか口元が引きつっているように見えるのはやっぱり気のせいじゃないんだろうなあ
「 なにが、おかしい! 」
「 おかしいだと?これが笑わずにいられるか!幾千、幾万の月日を渇望し続けた… 」
斧を横になぎはらい、高らかに笑うバルバトスにリオンがさらに不満そうに、舌打ちをした。確かにあの返答には私も勢いで高笑いをして馬鹿にしてやりたい気持ちに駆られるけれど残念ながら私は、くしゃみがさっきからでそうな感じで、ああ!むずむずする!
「 なんなの、この男…。あなた、知ってるの!! 」
「 しらない!街のおじさんの中にもいなかったもん! 」
君の基準は町のおじさんでいいんですか。それに未だにその『おじさん』について何一つ情報を得ていないんですが、その叔父さんって誰なんですか!こんな所で新しい疑問を出されても、頭の中で処理しきれないというか突っ込みきれないというか、ほんっとうに鼻がむずむずするっ、くそう!
「 どうやら、倒さなければここは通れないようだな 」
「 クダクダとくだらん!さっさと俺を楽しませろ! 」
吠えた男、怯まないディセンダー。
その後ろで武器を構え始めた二人の影、私はゆっくりと腰の重みを引く
「 今日の俺は紳士的だ。楽に逝かせてやる…。さぁ、来いよ 」
「 ふぁっくしょん! 」
「 …お姉ちゃん、 」
「 ごめん、空気は読もうと思ったんだけどっくしゅん! 」
「 …もういい。お前は端で静かにしていろ! 」
「 いや、戦闘する!するから! 」
慌てたように残りを引き抜いて、マスク内の薄い酸素を吸い込むとまた鼻がむずむずした。いっそ鼻の中がつまってくれればいいのに。そうしたら此処まで皆から冷たい視線を浴びなくてもよかったのかもしれない。
「 さぁ、死合うとしようか!ディセンダー!! 」
「 …ディセンダーじゃなくて、私が相手だ! 」
これ以上お前に時間を掛けさせるわけにはいかないんだよ。エールは最近顔色良くないのに、必死に仕事、仕事と繰り返して。今日だって帰ったらもう寝かせるつもりなのに!話どおりにあの子が倒れるだなんて、ごめんだ
柄を握る力だけが一番元気で( 犬死を希望するか…!相手をしてやろう )
( うるさいよ、ふぃっくしゅん! )
( くしゃみなぞ、してんじゃねええええええええ!! )
( さけんでんじゃねええええええええええええ!頭に響くだろーが!! )
( …お姉ちゃん )
( どっちも、どっちね )
( あいつらは、馬鹿か )
11/0401.
→