「 浅葱、教えて欲しい事があるの! 」

「 どうしたの、カノンノ 」



珍しくホールにいるなあと思っていたら私を指名ということで一瞬だけ気を抜きそうになった。危ないぞ。今手を離したらホールメンバーへ持ってきた飲み物のカップを落としてしまう。もちろん一人で掃除で一人で新しいカップを買いに行くことも計算した私の頭が思考が働く前におぼんをミシィと音を立てながら、強く握り締める。カップよりも壊れるものが今あるような気がしたんだが



「 どうしたら恋って出来ると思う 」

「 ……錯覚とかじゃなくて、恋ねえ 」

「 お願い、教えて… 」

「 一般的に自然現象とは思われているけれど、自分がしようと思って出来るものではないよ? 」



ホールにいるクレスや少し頬を染めたミントに配りながら、おぼんを持ったままカノンノのほうに振り返ると泣きそうな顔をして私を見ていた。しまった、泣かせたかもしれない。いやいやいや、私そこまで酷いこと言ったか?言ってないはずだ。だって、恋なんて難しい課題だし、恋はしようとおもってするものじゃないから!落ちるものなんだってパニールも言ってただろうに



「 …パニールと、同じ事言うんだね 」

「 諦めきれない? 」

「 当たり前だよ!だって、パニールは、パニールは… 」

「 世界が平和になれば、恋に落ちる可能性はあるとは思うよ 」



知っているからこその、この言葉を吐いてみた。それに危機的状況に追い込まれているときに恋だなんだと言っていられるような性格じゃなさそうだからね、あのパニールは。追い込まれれば追い込まれるほどに、必死にみんなに栄養のあるものを食べさせようと頑張ってくれる人だから。きっと今は恋をしても気付かないかもしれないよ



「 どういう、こと? 」

「 パニールの性格を考えてみたら、皆が必死になっているときに恋に落ちていても気付かないかもしれないって事。必死になっていたらパニールも頑張ってみんなに栄養のあるものを食べさせようって頑張ってしまう人だから 」

「 …じゃあ、世界が平和になったら、パニールも 」

「 可能性はある 」

「 そ、っか。そうだよね、 」



カノンノには私の分のカップを渡すと、小さく笑ってありがとう、と呟いた。
そして、



「 浅葱は恋したことあるの? 」

「 の、ノーコメント 」

「 でも、今の話聞く限りあるんでしょ? 」

「 ……… 」



興味津々と言った視線が刺さる。ぐさっと音を立てながらあちこちからの視線を受ける私の口元がどんどん引きつっていく。人の恋の話なんか聞いてもあまり楽しくないでしょうに!私はもっぱら人ののろけを聞いて楽しむ派だよ!話す事なんか何もないんだからね!



「 あるか、ないかだけでいいから! 」

「 う、 」

「 私も気になります 」

「 み、ミントまで…!? 」

「 …あ、ある?でも、あの、恋とか、よく、わからないので、 」



お願いだからこれ以上聞かないで下さい。こう、過去の恋とか恋したなあって人が話すものだから私みたいに『恋?』みたいな人に聞いちゃだめだって。そんなトキメキとかなかったし、聞くならばやっぱりルビアとか、ミントとかのほうが、



「 浅葱さんの恋ですか、きっと素敵な恋でしょうね… 」

「 いやいや、ちょっとミントなに空想に浸って、 」

「 浅葱の恋かー…確かに、よさそう 」

「 あ、アーチェ? 」



く、くそう、こうなったら今何も言葉にしなかったホール男性陣に声をかけて何とかするべきだろうか!でもクレスとチェスターじゃ、クレスはミント見てるし、チェスターはお前なんでアーチェにこんなんじゃね?的な感じで参加してんだ。女の恋話に参加するお前ってどうなんだ、くそう、こんなところで突っ込んでる暇はないのに!



「 でも、浅葱って男の人落としそうだね 」

「 …か、カノンノ 」

「 すごいなあ… 」

「 もうやだ! 」



こうなったらクラトスに慰めてもらおう。クラトスは廊下のほうにいるはずだからいまから駆け込めば多分問題な、い?あれ、なんでクラトスが剣を磨いでるんだろう。なんか逃げ場がない気がしてきた。こうなったら結構初心そうなリオン、はだめだ。あの部屋には空気王がいる。だとすればやっぱりロイド…はちょっとコレットがなあ



「 …なーにしてんの? 」

「 は、ハロルド!酷いんだよ、この子達! 」

「 は? 」

「 ハロルドさんも思いませんか?浅葱さんの恋は素敵な恋だと 」

「 あー、そういうコトね。案外、 」

「 はい退場! 」




( あらあら、浅葱さんったらどうしたのかしら? )
( ぱ、パニール…花咲く乙女達は鬼畜だよ… )
( なにがあったの? )
( 恋を想像されました )
( まあ! )

11/0331.




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