エコー・フラワーに近づいた私達はエコー・フラワーの前まで来てからその花が喋っている内容に口元が引きつる。『なるべく喋らなくてよかった』と安心している一人の自分ともう一人の自分があと少しでまた泣き出してしまいそうな少年に『次にいい事があるさ』と呟いて。喋る花の前でしゃがみ込んだエールの隣にしゃがんだ。



「 これよっ!これが喋ってんのよ! 」



後ろから聞こえるイリアの声。
エールはただ喋っている花を見て、始めてみる物に嬉しそうに笑う。



「 これって、さっきのイリアの声…? 」

「 わたしの声も真似してるよ! 」

「 ね、これなんじゃないかなぁ!やまびこみたいにマネするじゃん 」

「 まあ、繰り返してはいるけど 」



ルカの悪口とエールの歌を繰り返すこのカオスな花を持って帰っていいんだろうか。森のくまさんとか、銀河鉄道999とか、結構メジャーな曲ばっかりで面白みは十分あるけれど此処はやっぱり、ラムちゃんとかそっちの方がよかったのかなあ…。でも途中でおねしょ疑惑の発言が入るラブソングは誰も聞きたくないか。私は多分聞ける。お腹抱えながら



「 あ、でも…、種ェ?これ花じゃん…。しょーがない、これ持って帰ろっ 」

「 えっ!!よ、よそうよ 」



諦めた方が身のためだぞ、ルカ。
此処で確実にこのエコー・フラワーを置いて帰ったりしたら確実にあの腹黒きチク陰険眼鏡がじろりと恐ろしい視線を向けてくるに違いないんだ。そして一言目に『早く採ってきなさい』と私に死刑宣告を迫る姿なんて安易に想像できるんだぞ…



「 ルカー…おねしょ〜… 」

「 うぐっ…、こいつ… 」



例え、黒歴史を持ち帰ることになろうともさほど気にする事はないだろう。私なんて最近日々が黒歴史に近づいてきている気がするし、聖職者らしい格好は慣れてきたけれど始めのうちはどうもコスプレチックで抵抗があったからなあ。まあ、秘密を抱えた爆弾なんて、自分も植物も一緒だろう。気にするな、ルカ



「 ま、まあ、見つかったんだしぃ〜♪ほぉら、気にしない気にしないっと! 」

「 これ、みんなに聞かれるのか…。はぁ〜… 」

「 お姉ちゃん、お花採らないと 」

「 ちょ、ちょっと待ってエール 」

「 うん? 」

「 なんで、エコー・フラワーの茎を握ろうとしてるのかな? 」



あと3秒遅かったら確実にエコー・フラワーの視界が真っ白に変わっていたかもしれない。持ち帰る以前の前に植物を手の圧力で殺しかねないぞ…!砂漠に咲いてる花だからって土が柔らかいとか限らないんだから引っこ抜いたりしたら、



「 だって、持ってかえるならひっこぬかないと… 」

「 はい、不正解ー! 」

「 え? 」

「 まずは、根を傷つけないように土を掘らないと枯れるからね 」



持ち帰る前に弱らせそうな勢いを何とか止めなくては。そう思って少し熱い砂のような土を手でどける。とエールが私の手をじいっと見つめて、同じようにそっと土を避け始めた。スコップとか誰も持ってなくてよかった。薬草だったら代えはあるけれど、この花は見たところなさそうだから気をつけないと



「 優しく、だよ 」

「 やさしく… 」

「 この間、カノンノの頭を撫でてた時みたいに優しくね 」

「 うん…、え?なんでお姉ちゃん知ってるの!? 」



目をぱちぱちとさせながら私の方を見つめるエールの手は止まってしまった。私は後少しで安全に取れると思うその花の根を傷つけないように土を避けて



「 私は、大事な妹たちの事をちゃーんと見てるから 」

「 そうなの? 」

「 そうだよ。可愛い可愛い、妹のことなら尚更 」



ゆっくりとエコー・フラワーの根を引くと、また気の抜ける歌が響く



「 見てる? 」

「 見てる 」



首をかしげたエールに私が頷く。始まった日から君がずっと私の背を見ていたように私は君たちの事を見ている。始めは嘘がばれるという事を恐れて、今は君が傷つく事を恐れて



( どこで転んだとか、どこで誰に出会ったとか )
( 全部じゃないけれど、 )
( 君を、見守っているんだよ )

11/0330.




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