相変わらずの歌が続いて、そしてエールも道徳などで使われそうな歌を口ずさみ始めた。多分この歌のターンはエンドレスなんだろう。それもエコー・フラワーがその言葉をまねするとも知らないで繰り返される。何度も何度も。私は今だけ自分の記憶力を褒め称えたい。此処で大きな声で呟いたり、喋ったり、歌ったりしなかった自分…すごく偉い!



「 ねえ、イリア 」



歌のターンが耐え切れなくなった少年が口にしたのは少女の名前だった。少女は気付かずに(少年の欠点?の)歌を口ずさみ、少年が視線を少女に向ける。すごくまともに思えるナレーションって案外難しいな。人事だからできるけれど自分の事をやれといわれたら無理だ。砂漠の砂に足が少し埋もれたなんていうわけには…!



「 ルカーのおねしょは〜♪ 」



ルカの視線に耐え切れなくなったイリアの声が、ピタリと止まる。そりゃ、歌っているところをじいっと見られれば当たり前なのかもしれない。私も洗濯物相手に機嫌よく歌ってるところをじいっと見られたら恥ずかしいと言うか、ずっとは歌ってられない…し



「 …何よ、せっかくのどの調子が上がってきたってのに… 」

「 まだ歌うの?っていうか、まだ僕おねしょ人間扱い? 」

「 ったり前じゃん☆ 」



多分、何年経ってもこの二人はこんな感じなのかなあ。あの掛け算が出来ないロイドだて2年たてば掛け算が出来るようになるというのに、この二人はなかなか難しいかもしれない。いや、もしかしたらスパーダが裏役を…でも忠誠心はあるけれどそういう恋愛面は結構歳相応の少年って感じだからなんとも言えないんだけれども、そうだったらいいのになあ



「 もうヤダ… 」

「 諦めるにはまだ早いよ、少年 」

「 …でも、 」

「 …悪い事があればいい事だってあるんだから。耐えるんだ… 」



そのいい事って言うのもすぐに終わってしまうんだろうけれど。これだけ長い間、苛めのような歌をエンドレスで聞かされて、そのあとにちょっとした褒め殺しにあうという飴と鞭状態になることを少年は知らないまま、曖昧に私へ頷いてみせた



「 …わかった、浅葱を信じるよ 」

「 …信じろ 」



あんまり信憑性のない台詞と、感動のない場面でも重要台詞を使うこの不思議な気持ち。このタイミングで信じられてもちょっと、あの、なんともいえないんですが…!私にはワクワクとドキドキが何もない『信じる』だけが与えられてしまったんだけれども、どうせなら今後の君達の展開とか見たいんですけど、そういうドキドキがお姉さんは恋しいです…!



「 お姉ちゃん、続きの歌詞がわかんないんだけど… 」

「 え?何歌ってたの? 」

「 あのね、お姉ちゃんがいつだったか歌ってたお歌 」



比較的、いつでも歌ってるから何の曲かはわからないんだけれども。何歌ってたっけ?いや、エールが聞いてたとなると範囲が広すぎる。たまに部屋の中でも妙なテンションで歌ってたり、大浴場でテンションあげて歌っていたりすることが多いからなあ。どこだ、どこで歌ってたやつだ…?



「 ううん…私もわからないなあ 」

「 そっか…じゃあ、違うお歌にするね 」

「 喉、痛めない程度にするんだよ 」

「 はーい 」



撫でるはずが、触れることなくエールの身体に入っていった指先。痛みのない、指を曲げたのかそのままなのかもわからないぼんやりとした麻痺状態に手をゆっくりと、下ろす



「 そういえば、浅葱って、前に大きな怪我したよね? 」

「 え?そうだっけ? 」

「 どうだっけなあ…ギルドにいると大体怪我はするし、大きいも小さいもよくわからないよ 」

「 おねえ、ちゃん? 」



目が合う、その表情は



「 わたしを、かばった傷、じゃない、の? 」



忘れない、とばかりに輝いていた。
忘れはしないと私を見て、おかしな現象を見るような目でイリアとルカを見る。ただ見るだけで何も口にせずにゆっくりと首をかしげた



「 最近忙しいからみんな忘れちゃうんだよ 」

「 …忙しいから? 」

「 うん 」

「 …そう、なのかな 」




( 耳に残る )
( 知らなくていい )
( 知らないままでいてくれればいい )
( そう思うだけで、この時、私は異変には気づけなくて )

11/0328.




- ナノ -