「 ルーカー、お〜ねしょ♪ルーカー、お〜ねしょ♪三日に一回おっこらっれる〜♪ 」

「 あのちーへいせーんー♪ 」



歩いていくたびに私が吹き込んだ音楽のシリーズがエールの口から流れていく。イリアはそれに対抗するように声を張り上げ、エールも負けじとといった感じでルカが何度目かのため息をついた。なんというかただのいじめっ子を相手にするか、どうするかを悩んでいる苛められっ子とは思えない様子にイリアの口の動きがピタリ、と止まった



「 むむ〜ん…、飽きた。だって、ルカったら無反応なんだもん 」

「 もう、いい加減にしてよ。僕、ほんとにおねしょしてるような気になってきたし… 」

「 かがーやくーのはー♪どこかーにきみーをー 」



気分は小学生の遠足になってきました。一部だけだとしてもその一人にお道具箱から取り出したあの小さな歌詞の本を渡してあげるのが一番な気がする。遠足とかで歌ったりする謎のあの曲達が妙に懐かしい。



「 ルカ、気にしないほうがいいよ? 」

「 そ、そんな、無理だよっ!だって…、こんな歌をエンドレスで聞かされるんだよ? 」



私もルカの立場だったらもう笑い始めるかもしれないけれど、ルカはそこまでしぶとくはないらしい。必死になっている姿がイリアの悪戯心というかいじめっ子精神をくすぐっているという事に気付いていないんだろう。さすが、と言うべきか、尻にしかれマンというべきなんだろうか



「 このままじゃ、ホントに僕、どうかなっちゃうよ 」

「 こんな歌って何よ!あたしの作詞作曲のステキ・ソングよ! 」

「 詞が、僕の悪口になってるのが問題なんだけど… 」



呟くようなルカのため息を聞き逃さないイリアの口元がまた釣りあがる。そういえばエールもこの間スパーダに似たような表情をされていたような気がするなあ…何が原因だったっけ?辛口カレーじゃなくて、ええっと…



「 ああ、個人情報の漏洩ってやつね〜 」

「 ち、違うったら!僕はおねしょなんかしないのに… 」

「 …ルカ、気を落とすな 」

「 浅葱も、そんなテンションやめてよ! 」

「 ええ…じゃあ、 」



どうしよう。この微妙なテンションをやめろといわれたら、上げるか下げるかしか選択肢がないんだけれどもその選択肢が今後の私の喉を生かすか、殺すかに別れてしまうはずだ。ルカったらなんて危険な子!こんな所で私の喉を殺してどうするつもりなのかしら!どうにもならないような気がするんだけどね!



「 ハイなテンションとあまりにもローなテンションどっちがいい? 」

「 ふ、普通は!? 」

「 …今が普通だけど 」

「 え?いつもは、も、もう少し高いよ 」

「 声が?テンションが? 」

「 両方、かわるの? 」



女なら声を変えるのなんて簡単だろう。
よくある話のひとつだと言えばきっと疑いの眼でイリアを見るだろうからお姉さんは、そっと胸のうちにこの秘密を秘めておこうと思います。



「 ルカ、私を誰だと思っているんだい? 」

「 …お姉さんみたいな、人 」

「 …………………、 」

「 浅葱? 」

「 お、お姉ちゃんが悪かった…! 」



知らないうちにこんなにも可愛い弟分が出来ていたとは思いもしなかった…!それになんというか、そういわれると弱くなっているような気がするのは気のせいじゃないんだろうなあ。確実にエールの影響が出回っているんだ。私のせいじゃない。けして、お姉ちゃんとか言われて浮き足立ってたりしないんだ!



「 でもね、ルカ 」

「 なに? 」

「 好きな女の子のためなら、我慢してみな 」



好きなもののための妥協は誰でも通る道だ。とは言わないけれど、耳元で呟いたその言葉は妙に力を放ってしまったようで耳が急に赤く染まり始めて、それを知らずさっさと進んでいくイリアやエールたちは振り返らない。振りかえらない、一人の少女の後姿を見て、薄ら頬を止める初心な少年。ああ、くそう、可愛すぎる…!!



「 じゃあ、私はそろそろエールに水あげてくるから 」

「 う、うん… 」

「 あれだけ歌ってたら、水やらないと枯れると思うけど、ね 」



とんだピエロみたいな役割に私はゆっくりと笑みを作ってエールへと近づく。慌てたような足取りが後ろから響く中で、ルカからコップなしで水筒を奪い取り、口をつけたイリアにまた耳を赤くして慌てふためくルカがいる。それをみながら、私も水を口に含んだ。


( 若いっていいなあ )
( え? )
( いや、エールにはちょっとだけ早いお話 )
( うん…? )
( そのうちわかるからね )

11/0328.




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