「 浅葱さん、少しよろしいですか? 」



そんな声が聞こえて振り返ると私より低い位置でキャプテンハットがうごめいていた。うごめくと言うのも変な話かもしれないけれど、比率とかを考えていてもキャプテンハットにかぶられていると思って話したほうがもう目線とか迷わなくてすむんじゃないんだろうか。キャプテンハットにかぶられているバンエルティア号の子供船長。少しややこしいけれどよくあることだ。心にしまっておこう。



「 どうしたの? 」

「 ええと、『人の物まねをする花』の事なんですが…その、最近エールさんの顔色も悪いですし、浅葱さんが代わりに行ければと思っていたんです 」

「 うん 」



それでもいいならば、これと言った敵はなかったはずだし熱さに耐えて汗をかきながら砂漠を徘徊すればいいんだからチャットが私に言ってくれれば喜んで行くんだけれども。この言い方だと何かあったんだろうなあ。エールの反抗、とか…それかハロルドがまた止めてくれたか。最近薬も飲んでないから、確かにちょっとまずいかもしれないけど



「 エールさんが意地でも行くみたいで 」

「 …そうなったら、意地でも、無理やりでも行くんだろうねえ 」



そのつもりなら、私も戦う準備をしなくてはいけないや。あと、少し塩を混ぜた水か何かを作っておいた方がいいかもしれない。汗で欠けてしまうものを補充する飲み物くらいは持っていかないと持っていきそうにないのが2人ほどいるからねえ



「 あの、浅葱さんはエールさんを、止めたりはしないんですか 」

「 …私は、止められないなあ 」

「 どうして、 」



それは、あの子が意地になる理由。
意地になってまで、頑張る理由が沢山あるからだと思うんだ



「 私は、あの子が『独りぼっち』を救おうとしているのがわかるから 」

「 ひとりぼっち、ですか? 」

「 前に、ディセンダーだって言われる前に一度聞いたことがあるんだけどさ 」

「 …何を? 」

「 『もしも、自分がディセンダーだったら、どうしたい?』って 」



私は今でも忘れる事は出来ないんだよ、あの子のこの返答を。だから、意地になってまで仕事に行こうとする事を止めることなど出来ないんだ。もしも、あの日。私が聞いたこの質問にあの子がもっと違う言葉を返してくれていたのならば。チャットの話を聞いてすぐに止めにいけたかもしれないのに。



「 そうしたら、『みんなが大好きだから、みんなを助けたい』って私に言ったんだよ 」

「 …、だから浅葱さんは、エールさんを止めないんですね… 」

「 止められないの。エールは、私が言った事を自分なりにしているから。あの子が意地を張ってまで仕事をしようとするのは、 」



いつでも、私の傍にいて



「 ずっと私の傍にいて、学んだことなんだってわかってしまうんだ 」

「 学んだって、それじゃあエールさんは浅葱さんみたいに無茶を、 」

「 させない為に、『お姉ちゃん』がいるんだって 」



私から意地っ張りまで学んでしまったとしたら。恐ろしいペースでくる重要任務を必死にかじりついて仕事をしているのにも納得が出来る。私も前にジェイドに首の後ろに手刀を打ち込まれてやっと休んだから。あの時やっと気が抜けたのもそうだけれど、あのときの彼の言葉は心に響いたなあ



「 それに…約束、したからさ 」

「 約束ですか? 」

「 『ずっと、いっしょ』って、あの子は私に言ってくれたから 」



カモメを見ながら、つたない言葉の中から選んでくれた。そのたった二つの言葉を、忘れない。私を『だいすき』だと言ってくれた。『浅葱、お姉ちゃん』と戸惑いながら、呼んでくれたことを、どうして忘れられるのか。忘れようとも忘れたくない思い出たちを、あなたたちと過ごした日々の思い出を増やすために



「 一緒にお仕事しに行かないとね 」

「 !で、では、浅葱さんも登録しておきます 」

「 うん。お願いします。私は、食堂で水補給してくるから 」

「 はい。砂漠地帯ですので、くれぐれも熱中症にはお気をつけて 」




( 思い出を作って、あった事をメモしよう )
( 何作ったとか、誰と仕事に言ったとか )
( 嬉しい事と、楽しい事で沢山、書ききれないことを )
( 思い返して、笑えるように )

11/0328.




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