この場で反響した鎮魂歌が妙に響いて聞こえて、耳に帰ってくる音が寂しそうに聞こえた。寂しいと感じていたのが私なのか、それともこの世界にある残留思念なのかわからないまま、息を吸い込んでは繰り返す。曖昧な歌詞の曖昧な鎮魂歌を、何度も何度も繰り返しては、自分の中の矛盾だけが妙に浮かび上がってしまう。『消えたくない』『忘れて欲しくない』『帰りたい』『帰りたくない』『忘れられるくらいならいっそ消えてしまいたい』全部、全部、私の、わがまま



「 辛いなら、失くせばいいのに 」



どこかから這い上がるような、声。
まるで私自身が喋ったような音が響いて、周りを見てもたった独りぼっちなのに。



「 失くしてしまえば、もう辛くないよ。帰る場所も消える理由も、忘れる記憶さえも 」



優しく囁く、私の声。唇が動いた訳でもなく、どこからか聞こえるその声が言っている事は確かに辛くはない方法ばかり。こんな屁理屈を浮かべられるのは確かに私だけ。私の発想としか思えないような言葉が並んで、思わず頷いてしまいそうなあの子に話しかけるような甘くて優しい音程で私に話しかけている



「 まあ、もっともの話。一番手っ取り早いのが私がいなくなればいい。どの世界にも、どの記憶からでも、私がいなくなれば問題ないでしょう? 」

「 …、そ、れは 」

「 今さら『約束』だとか『お姉ちゃん』だとか、こだわるくらいなら、あの時に4人を突き放すような事言わなかったんじゃない? 」

「 ……… 」



謝らなきゃ。
帰ってから、あの人達に謝らなくちゃいけないんだ。心配してくれたあの4人にも、笑顔で心配してくれたあの子にも。私は、謝らないと大切な人達を傷つけたままになってしまうから



「 帰るね 」

「 どこに 」

「 私の帰りを待ってくれてる船に 」

「 どうして 」

「 理由が出来たから 」



とっても大切な理由が出来てしまったから。私にとって、勇気を振り絞って声に出さなくてはいけない大切な理由が出来てしまった。私の発言で、私の感情の一人が、教えてくれた帰る理由を



「 帰っても、私はいなくならないのに 」

「 うん 」

「 何で、『寂しい』とか『勝手に忘れるな』とかなんで言わないの。何で私自身を訴えてくれないんだ!どうして、私を言葉にしてくれない?!私自身はなによりも、私が思っている事なのに! 」

「 君が、形にならないのがその理由なんだよ。だって、私はちゃんと君を受け止めてるから。声に出さなくても君の、私の感情を受け止めてるから私にならないんだものね 」



私は私を切り離してはいないから。ちゃんと君が私の中にあることはわかっているんだよ。人は孤独を感じるのが当たり前で、つながりが欲しいから言葉を交わす。でも、その言葉の中でも選ばなくてはいけない感情はあるし、私は悲しい言葉を沢山押し付けられたらきっと楽しい気持ちにはなれないだろうって思うから余計に出来ない



「 耐え切れなくなったら、形になっていいから 」

「 本当に、帰るんだ。馬鹿だなあ、私 」

「 突き放してしまった事を、謝らなくちゃいけないから 」

「 突き放してたほうが、どう考えても辛くないのに 」

「 大事なものを突き放して置ける訳ないよ 」

「 じゃあ、私は、大事じゃないってこと…? 」



私の感情が大事じゃないとしたらそれは欠陥になってしまう。私がいてこそ、感情を表すのが楽しい毎日なのに。一人、たった一つの私がいなくなってしまったらそれこそ楽しみは一瞬にして消えてしまうだろう。辛いがあって楽しくて、楽しいがあって辛い。一つだけで人生を楽しもうだなんて、



「 私が馬鹿なら、私自身も馬鹿なんだねえ 」

「 私は私の意志であの子の前に飛び出した。自分を傷つけてまで守った。今までにそれは何度も合ったけれど、あれはどう考えたって 」

「 私にとって、誓いや約束は自分以上に大切だと思ってる。守るって、護るって約束したんだから 」

「 なん、て、綺麗事 」

「 綺麗事だよ。その綺麗事でも、私にとって、大切なものだから 」



大切で綺麗すぎた私の支え。
その答えは、ちゃんと関係になってきているはずだから



「 ああ!浅葱姉さんいた!もう昼なのに、姉さんがいないから食堂の中荒れてきちゃってるよ!? 」

「 っていうか、心配してる人の方が多いヨ…。ボクもお腹すいちゃったし、一緒にご飯食べたいしさ。帰ろー? 」

「 二人とも、きてくれたの? 」

「 いや、オレ達じゃ不安だって付いてきてくれたんだ 」

「 え? 」



その先に、いたのは



「 此処で残ってどうすンだよ、ばァーか 」

「 浅葱帰んぞ、まだデザート食ってねえんだから 」

「 流石に心配させすぎ。俺様、心臓裂けちゃうかと思ったし 」

「 君は何度いなくなれば気が済むんだ 」

「 …ありがとう。それと、この間はごめんなさい 」



カイルとマオだけがきょとんとした中で私が頭を下げる。深く深く下げた頭を誰かの手でわしゃわしゃと撫でられて視線を上げていくと4人ともおかしなくらい笑ってて、



( だいすきだよ )
( みんながだいすきだから )
( 悲しい気持ちは私だけが、受け止めてしまっておくね )
( 皆には、笑っていて欲しい私の我侭の為に )

11/0325.




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