「 それにしても、三色に光る苔とは。初耳だな 」



私は君が此処にいることが初耳です。ちらちらと視線を送ってくる色黒王子になんと返答すればいいものかと頭を悩ませながら、このフラグはあまり必要ではないんじゃないかと思い。早く泡吹かせサンゴだかなんだかにあわせていただければもう個人的に万々歳だ。1mほど横に距離を置いて歩いているつもりなのに、ふと横を見れば至近距離に色黒王子。回避方法を教えてください



「 赤、黄、緑の色を放ちます。薬草としても貴重で、それぞれの色の箇所、そして色の配合で薬効が変わります 」

「 だが、先日のルチルブライトといい。今回の苔といい、それらが一体世界樹に動作用するというのだろう 」

「 世界樹にとって、回復を妨げるものを排除し、また回復力を促すものだと考えられます。抗生剤と栄養剤みたいなものでしょう 」

「 お姉ちゃん、こーせーざいとえいよーざいってなに? 」

「 抗生剤って言うのが、世界樹の傷の治りをばいきんが邪魔しないようにするヤツで、栄養剤って言うのが簡単に言えば私達にとっての食事かな 」



もっと理解しやすく言えば抗生剤はバンドエイドで栄養剤が食材になってしまうけれども。流石にこれを口にするとフィリアから詳しい補足が入ってしまってエールが戦闘に参加をする間もなくなってしまうだろうから心の奥底にそっとしまっておこう。



「 設置する場所は、世界樹にとってのツボみたいな部分なのでしょうね 」

「 ってことは、世界樹も生きてるんだね 」

「 その通りだ、エール君。植物も、いや、この大地でさえ生きている 」



今はウッドロウが真面目なことを言っているから、今のうちに戦闘に駆け出した振りをして距離をとってしまおうか。彼は時々異常なくらい感情を見せ付けてくるからな。嫌いではない。苦手なだけで、その



「 そしてこの世界そのものが緩やかな死に向かいつつある 」

「 ええ、このまま死を待つべきではありません 」



真面目な会話をしているときだけが害がない男、空気王。



「 そうそう、ツボといえば…。この先で道をふさいでいる泡吹きサンゴもツボには弱いんですよ? 」

「 ツボ…? 」

「 ふふ、泡吹きサンゴの際にお教えしますね? 」

「 うん。あ、そうだ、フィリア。あのね 」

「 なんでしょう? 」

「 今度三つあみの仕方教えて欲しいな! 」

「 いいですよ 」



三つあみくらいでしたら私だって教えられるよ!お姉ちゃんそのくらいできるんだからね!だからお姉ちゃんもその会話に混ぜてください。お願いします。もうどうか、どうかこの悪意の無い好意を寄せてくる男から逃げ道をたった一つでいいので残していてくださいますと私としてはとても嬉しいのですが。もう嬉しい通り越してベリーベリーハッピーなテンションになれるのに!



「 浅葱君、どうかしたのかな 」

「 なんでもございません 」

「 なんでもないことはないだろう 」

「 では、戯言の類ですので気になさらずに 」

「 君の事なら何でも気になるのだが 」

「 あはははは、気が多いんですねえ 」



このまま、詠唱ミスの振りをして一撃かませばいいんだろうか。わざとらしく回避してみた先に毒を一つ置いてみた。これで嫌がっている事くらいわかるだろう。さあ、いっそこのまま諦めてくれれば私の平穏の日々が守られるんだ。さあさあさあ!



「 嫉妬かい?私は、君一筋のつもりなのに 」

「 とんだフェミニストですねえ 」



か、かゆい。台詞が痒いんです!ウッドロウさん!
く、くそうこのままどうして、引き下がることなく大きな勘違いをして笑顔を浮かべてるんだ。まさか、わざとか?いやでも、今のところ腹黒な部分は見当たらないような



「 浅葱さんは、本当に好意をもたれるんですね 」

「 フィリア!そんな微笑ましいものじゃございません! 」

「 こーい? 」

「 ふふ、エールさんにはまだ早いお話でしたか 」

「 フィリア君、恋に早いも遅いもないだろう 」

「 好意と恋は微妙に発音が似てるからって路線ずれが起きてますからね! 」



現象と気持ちを同異義語に代えてしまいそうな勢いで話しているその3人に流石の私も突っ込んでは見たけれど、このままじゃあ確実にウッドロウのペースに飲まれてしまいそうだ。こうなったら、どうやって道を切り開くべきか。



「 ところで、浅葱君。君は好きな人がいるのかい? 」

「 そういう意味の好きな人はいませんし、作る気もありませんから 」

「 どうしてか、教えてもらえないだろうか 」

「 今はいろんな事で手一杯なんですよ 」



この話が進むたびにやる事が増えていくこの世界の中で、恋をするようなゆとりはありません。ゆとりがあれば、きっとあの人達の好意にどんな形であれ応えることが出来たのかもしれない。でも、それは思うだけ。思うだけで



( それ以前に今の関係が丁度よくて )
( 好意を受け取る事が出来ないまま )
( あいまいにして、傷つけないように立ち回るこの私を )
( あの人達は、どう思って声をかけてくれるんだろう )

11/0323.




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