四角い箱の中に積み上がっていく、私物。入りきれなくなっては、こんなにも私が必要としたものがあったんだ。なんて思い知らされて。頂き物と自分の物に分けて自分のものを入れた箱に漢字で書いた『処理』の文字。頂き物にはこのグラニデの文字で『倉庫行き』と書いてその箱だけ、ベットの下に押し込む。無くなるのは自分の物だけで十分だから



「 寂しいくせに 」

「 え? 」

「 嘘吐き 」



振り返れば、何も無い部屋に響いた声。
残ったものは紙とペン、クローゼットには後数日分の衣服だけのはずなのに、私に似た何かの声が部屋に響いた。後ろを向いても前を向いても、そこには何も無いのに



「 …独り言、無意識に呟いちゃったか? 」



口がゆるくなったのかもしれない。最近色々ありすぎて髪にも白髪が見えるようになってしまった。この間パニールにむしられたばっかりなのに。さすかに皮膚に映えているものが相手だから手間取り、白くない髪さえも数本犠牲になったけれど日がたてばきっとあの髪も白くなってしまっただろう。ストレス発散に闘技場も行ってないからなあ



「 お姉ちゃん、いますか? 」

「 はーい 」



ゆっくり開いた先にいるのは、光をまとう者。嬉しそうに笑みを浮かべながら私に近づいては花開くみたいににっこりと笑みを浮かべて両手を伸ばして私へと飛んできた。って、ちょっと待て!今中途半端な体勢なのに抱きつかれたら体勢崩れ、



「 お仕事行こう、浅葱お姉ちゃん! 」

「 仕事って、 」

「 トワイライト・モス! 」

「 トライライトじゃないの? 」

「 え、えっと、三色の苔! 」

「 トライライト・モスね 」



なんとか受け止めたまま至近距離でずっと笑顔のままでいるエールにゆっくりと微笑んでは、君の笑顔がそのまま帰ってくる。まるで鏡のようなその姿に、その表情にふと安心してしまいそうな私は今そんな風に笑えているんだとしたらそれは幸せな事なんだって、じわりと心のそこが温まる



「 あのね、時間がかかるかもしれないってパニールにいったらお弁当まで作ってくれたの! 」

「 お弁当持参って、そんなに時間かかるかな? 」

「 だって、フィリアがモスは一番奥にあるから少し遠いかもしれませんね。って言ってたもん 」

「 そ、そうなの… 」



モスって友達か。某バーガーを思い出してしまうようなそんな勢いで言ったその言葉に突っ込みそうになったのをこらえたせいで声が震えてしまった。こんな至近距離で突っ込んだら確実にエールはびっくりしてポカーンとしてしまう姿も安易に想像がついてしまうのも長い間一緒にいるからだと思う



「 で、お姉ちゃんの分も頼んだから、一緒に行こう 」

「 …頼んだって、 」

「 チャットにも今日は浅葱お姉ちゃんと一緒に行きます。って言ったから行ってくれないと嘘になっちゃうよ 」

「 先に私に許可とるのが先じゃないの? 」

「 あ 」

「 うん? 」

「 そっか…、先にお姉ちゃんに今日の用事を聞くのが先だよね。ごめんなさい 」

「 いや、別に今日は空いてるから問題はないんだけど… 」



何よりもそういうのを他の人にやるときは気をつけて欲しいだけなんです。



「 この間はハロルドに止められちゃったから、今日は絶対だよ?ハロルドが止めても注射って言われてもぜーったい行くんだから! 」

「 絶対? 」



ふいに聞いてしまったその単語にエールがこの間のハロルドのことを思い出して膨らませていた頬がしゅーっと戻っていく。子供っぽいと言うべきか素でやっているから可愛いんだけれどもなんというか、どう見ても救世主には見えないんだよなあ…



「 そう、絶対!お姉ちゃんだって見たいよね?モスと泡吹きサンゴ!きっとシャボン玉みたいなの沢山出してるんだよ?綺麗だとおもうの! 」

「 シャボン玉って、誰かとやったの? 」

「 うん。食器洗剤でマオとふーってやったらいっぱい飛んでいったんだよ 」



だからこの間減ってたのか!最近洗剤の減りが早いなあとか思っていたけれど、それが原因だったとは思いもしなかった。確かに食器洗剤だと割れにくいし、よく飛んでいくから気持ちはわからなくも無いけれど



「 それに綺麗なもの見たら、浅葱お姉ちゃん元気になるもん 」

「 …、元気って 」

「 昨日から少し悲しそうなの、わたしはわかるんだよ 」



私を見たまま、



「 わたしは浅葱お姉ちゃんのこと、ちゃーんと見てるんだから 」



にっこりと笑って私の手を握ってひっぱってくれるその姿がくすぐったくて、また成長した姿が寂しくて苦笑してしまう。いつだって傍にいて、いつだって近くにいて、私の服の袖をつまんでついてきていたこの子は



( 嬉しいようで )
( 少し寂しいような )
( 複雑な心境のまま、 )
( 引かれる手に力を入れた )

11/0323.




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