教会から真っ直ぐマンダージに来てしまったけれど、意外と遠かった。途中で旅商人の馬車に乗ったりしながらきたからまだマシだったかもしれない。普通の人のまだ知らないこの土地にやっと踏み入ったのにこれといった情報もわからないまま、石造りの道を歩いて、怪しそうな場所を手で触れて、何も書いてない石に息を吐く



「 此処にも何もない、か 」



移住者達は、この地下都市の何処からやってきたんだろう。ディセンダーは世界樹からやってくると言ったけれど移住者についてはクラトスは何も言ってなかった。そもそも、向こうの世界から決まって此処に着たんだろうか。着地地点の違いとか、人類以外の移住者達が世界を歩いて最後に行き当たった場所が此処だったとすれば納得できるけれど



「 ジェイドはこの世界には異世界の客が訪問していたとか言っていたのに。訪問した際にここに落ち着いたなら、何か方法があってもいいのに 」



例えば、世界を跨ぐ方法とか。
でもリフィルやジェイドに教えてもらった文字と、此処にある文字は少し違うみたいで読めはしないんだけどメモして帰ってクラトスに読んでもらおうという魂胆さえも行動に移せずじまいだ。所々が欠けててペンを持つ気もしないよ…



「 …あれ?ユーリさん、あれって浅葱じゃない? 」

「 なあ、ガイ。あれって浅葱だよな? 」



しまった!こうも見つかるなんて!というか、なんでルビアとルークに見つかったんだろう!見つかるならハロルドとかそっちの方がまだ理屈に合うというか、ああ、無視するのにも無視しにくいメンバーだ。いや、ギルドメンバーに無視なんて出来る訳もないんだけれど!な、なんていえば、なんて言えばいいんだ!?



「 気付いてないのかしら、それとも何か探しもの…? 」

「 ちょっと声かけてみようぜ。もしかしたら困ってるかもしれないしさ 」



今はその優しさがちょっと辛いかな!
ち、畜生こうなったら探し物が見つかった振りをしなくては…!君達は好きにマンダージで戦闘してください。今だけはせめて見つかりたくはなかったのに…



「 あれ?ルークに、ガイ。ルビアにユーリだ。お仕事? 」

「 ああ。お前は? 」

「 この間来た時に忘れ物しちゃって。買い物してたら思い出して、途中馬車に乗せてもらいながら此処まできたんだけど、やっと見つかったよ 」

「 よかったじゃない。何を探してたの? 」

「 秘密のメモ 」



母国語で書いた殴り書きを見せ付けると4人は読めないので不思議そうに頷いていた。この殴り書きには、真夜中に何を思ったのが『味噌汁飲みたい』と書いてしまったのをそのままアイテム鞄にぶち込んでいただけの事であって大した内容ではないのだけど、意味のないことが役に立つ時ってあるよね!



「 じゃあ、今から帰るんだったら丁度終わったところだから帰ろうか 」

「 うーん、せっかくだからもう少しみておきたいなあ 」

「 そうしたらまた今度くりゃいいだろ。一人だと危ねえぞ 」

「 …で、でも、ですね 」



もう少し調べたい箇所があるんです。世界樹の間はまだ調べてないからあと少しでいいから調べたいんです。一人で!もう一人でひっそりこっそりと調べ上げてしまいたいのに



「 何か隠してるんじゃないんだからさ、今日は帰ったほうがいいと思うけど 」

「 でもね、ルーク。人には人の考えってものがあるんだよ 」

「 浅葱、人の好意に甘える事も大事よ? 」

「 人の好意に甘えっぱなしも良くないからね、ルビア 」



勢いに押されてしまいそうだけれど、此処が戦いです。
此処が非常に大事な押しどころ!



「 あと、一つ!一つだけ見たら、帰るから! 」

「 一つ、ねえ… 」

「 世界樹の間を見たら、帰るって約束する。だから、 」

「 じゃあ行くぞ 」

「 一人で大丈夫だよ、皆疲れてるだろうし 」



それにあまり調べているところを見られたくないというのと、世界樹の間に辿りついても何も方法が見つからなかったらきっと私は弱虫小娘に戻ってしまうだろうから。そんな姿を見て欲しくはないというか、見られたくは、ない。だから、



「 浅葱を一人になんて出来る訳ねえだろうが 」

「 君を一人にしたらあとで怒られちまうよ 」

「 …浅葱ってば、愛されてるわね! 」

「 でも、浅葱は 」



だから、



「 一人のときに、俺達に見せないような顔するよな 」

「 そうかな? 」

「 寂しそうな、泣きそうな顔し、 」

「 気のせいだって。ルークってば、もう、どんな風に私を見てるの?失礼だなあ! 」



だから、一人にして欲しかったのに。みんなの前と区切りをつける生活は、流石にきついものがある。一人になるのだって息抜きの方法で。昼間はあまり人のこない展望室に最近いるのもそのせいもあってか、作り笑顔が引きつりそうな感覚だけが心に伝わった



「 浅葱…? 」

「 ルーク、心配させてごめん 」

「 え? 」

「 でも、一人になりたいときって誰だってあるもんだよ 」



ずっと集団の中にいたらきっと誰だってそうなるだろう



「 …なあ、浅葱。一つだけ聞いていいか? 」

「 うん? 」

「 前に浅葱は欲しいものは記憶、って言ったよな 」

「 そうだね 」

「 でも本当は記憶じゃなかった。浅葱は一体何が 」

「 欲しいものは、ないよ 」



何かが欲しいと言えはしなかった。帰る方法が欲しいなんて口が裂けてもいえなかった。言ってしまえばルークが悲しそうな顔するのも此処にいる皆が困惑するのも、目に見える事実で



( これ以上何か聞かれてしまったら )
( 私が耐えられないから )
( 今にも震えそうな唇に歯をたてた )

11/0322.




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