「 あら、どうしたんだい?その荷物 」



両手に持った袋を指差して聞いてくるナナリーに私はすぐに苦笑を作る。マンダージに行くための嘘だなんて言えるわけもないんだけれども。この荷物は教会に行って寄付してきます。まだ読める本とか服ばかりだけど、そんなことをナナリーに言う訳には行かないし、家事で手一杯のはずの彼女に心配させられるわけない。



「 戦闘でほつれて解けちゃってる流石に修理できない布地とか虫食いだらけで読めなくなった本とかかな 」

「 あんたは戦闘で無茶するタイプじゃないと思ってたんだけど… 」

「 ナナリーの思ったような人間じゃないってことだよ。じゃあ、ついでに日用品の買い物してくるね 」

「 ああ、気をつけていくんだよ 」



でも、女の買い物は時間がかかる、を知っている人に出会えてよかった。少し時間の余裕が出来た気がする。またトライライト・モスには時間がありそうだし、多少の調べごとくらいなら問題はないはずだ。半日くらいは余裕でかかりそうだけどマンダージに仕事に来る人が少なければ、問題はない。隠れる逃げる、何でもこい!



「 …行くのか 」



廊下に寄りかかったまま目を向けてきたクラトスに私は頷く。彼にはもしかしたら見透かされているのかもしれないけれどきっと、クラトスが教えてくれなければしなかった道だから。わかられてしまっていてもおかしくはないんだけど



「 行ってきます 」

「 魔物には気を配れ 」

「 うん 」

「 怪我はするなよ 」

「 うん 」



ゆっくりと彼の前を通り過ぎる足音
けして動かない足を見ながら、下げようとした頭を掠めたのは



「 浅葱 」

「 ん? 」

「 一人で、抱え込む必要など何処にもない 」



ゴツゴツしたあの手。頭の上で優しく動くその手に痛んだのは、胸。穏やかに緩やかにあがるような痛みに、ゆっくりと下唇に歯を立てて。吐き出しそうな言葉を無理やり押さえ込んで飲み込む。抱え込む必要はあるから。抱え込まなきゃ、いけないから



「 気持ちは嬉しいけれど、その必要はあるんだよ 」

「 …そうして無茶でもする気か 」

「 無茶じゃない。可能性をみるだけ。可能性を、見たいだけだから 」



私は物語いる主人公みたいに、強くないから。自分の家族の姿だって見たい。私がいなくなってどうしているのか。知らないことばかりが増えて、知ることが違うところで増えていく中で、思い返して心が痛むくらいなら、一目、その姿を見たいと思うのは我侭で無茶なんだろうか



「 …皆には、内緒だからね 」

「 ああ 」

「 誰かに言ったら、私は怒るよ 」

「 わかっている 」

「 うん 」



この世界での私の存在が皆の記憶からなくなるとき



「 いってきます 」

「 …、行ってこい 」



私の居場所がなくなってしまうだろう。私の事なんて皆忘れてしまうんだろう。その時私は、帰りたい。と願ってしまうはずだから。その前にこの体が消えるかもしれない。それが、


( もしも、の手段の一つとして心の内においておこう )
( 例えば、が来てしまう前に )
( 私の体が、私の存在が消えてしまう前に )
( 可能性があるかどうかだけ、知っておきたい )

11/0322.




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