「 そこにルチルブライトを置くがいい 」



そう言ったクラトスは不意に私のほうを振り返る。20分ほど前に、震えが収まってやっとこの石の上を駆け出す事が出来るようになり、必死に走って久々のマンダージで迷子になりそうになった矢先、やっとこの場所にたどり着く事が出来た頃にはすでにルチルブライトが世界樹の根元へと吸い込まれていた。なんだか、乗り遅れ感満載。遅刻してきた生徒の気持ちです。ごめんなさい先生



「 ここの住人にとって、この場所は特別な意味を持っていた 」

「 特別な、意味? 」

「 先代のディセンダーはここから現れ、人々がマナを奪い合う戦乱を終結に導き、そして、ここで消えた 」



消える、という単語にエールの肩が大きく揺れて振り返ろうとしたまま、俯いて動きが止まった。多分、あの子は自分が最後に消えてしまうのだと思い込んでいるんだろう。私が今不安を抱えるように、同じようで違う思いを抱えたまま



「 この地の民は、その時ディセンダーが用いた武具を作り出し、そして戦乱が過ぎた後には武具を預かる役を担った 」

「 …武具?どうして? 」

「 再びディセンダーが世界へ舞い降りるその時の為に 」



そう言ってクラトスがふ、と笑みを浮かべた。



「 それらの武具は『レディアント』と呼ばれ、このグラニデ各地の時空のひずみに隠された 」

「 詳しいんだね 」



エールがそう呟くように言うとクラトスが一瞬しかめっ面になる。多分苦笑にもならなかったんだろうなあ。相変わらずというか、間の抜けるような返事をされると確かにそういう顔になるのはわかるけれど、レディアントは特に私がここに来た理由にはならないんだろうし、そうすると何があるんだろう



「 好きで詳しくなったわけではないのだがな… 」

「 うーん、そうなの…? 」

「 まあ、 」



エールの歯切れのない言葉にクラトスの言葉が繋がる。繋がって少し安心したような重要な何かを終えたようなその表情にエールがゆっくりと首をかしげて、じいっとクラトスを見つめている



「 ここにおまえを連れてこられた。私の役目は無事に果たせたようだな 」

「 役、目? 」



エールがまた首をかしげると流石のクラトスも苦笑し、ゆっくりとその手をエールへと伸ばして頭を撫で



「 レディアント…。それは光をまとい、世界樹から舞い降りし者、ディセンダーの異名でもある 」



優しい声色で目の前のディセンダーに教えていくその姿を見つめながら、世界樹の間の入り口を睨むように見たあと、宝箱のパズルあわせに励む。レディアントは一人用のお仕事だから、手伝う事も出来ない。だから、ひっそりと手だけ動かそうと思います。



「 この街は、おまえのマナを認識した。それがレディアントへの道を開く鍵 」

「 鍵、 」

「 それに、浅葱のマナも感知しただろう 」

「 私の? 」

「 ああ 」



認識ではなく、感知。ディセンダーはディセンダーとして認識されて、私は感知?それに何か意味があるとしたら?この街に私に関係するものが、いや、異世界に関係するものがあるとしたら?そうしたら、ここを調べなくてはいけないけれど、



「 じきに、レディアントは時空の向こうから現れるだろう 」

「 レディアントが、現れる?人なの? 」

「 人であってならざるもの、と言うべきかもしれんが。おまえが持ち主としてふさわしいかどうかを試す。…その時まで、しばし待つがいい 」

「 う、ん? 」



いや、そうするとクラトスは入り口の方で凄く大事な事を言っていたはずだ。確か、『異世界からの移住者であり、人類以外の種族が住んでいた場所』と。移住って事は移動してきた、と言う意味だとすれば人類以外が住んでいたわけだから人は、どこに?



「 これで用事は済んだ。戻るぞ 」

「 で、でもお姉ちゃんにお話があるんじゃないの? 」

「 いや、もう必要ないだろう 」

「 え? 」



人はどこにいったんだろう。人はこの土地から、地下都市から離れて、このグラニデに住む人達と暮らしていたとすれば、もしかしてこっちの世界からどこかの世界へと移住したって場合もあるんじゃないのか?



「 …浅葱、お姉ちゃん? 」

「 え、あ、どうしたの?なにかあった? 」

「 ううん… 」

「 心配させたなら、ごめんね 」



思わず抱きしめてしまったその小さな救世主は一瞬驚いたみたいに目を見開いた後くすぐったそうに笑った。思わず考え込んでしまったけれど、この場所で帰る方法を見つけても私は再び、この世界に帰ってこれるんだろうか。それ以前にこの子にいなくならないと約束したものを守れるのかもわからない



( 行き来が出来ても )
( この世界では、もう私の体は )
( 皆の中の私が消えてしまう事を忘れたまま )

11/0321.




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