太陽の日差しが暖かくて布団が暖まっていく。一般的に言われる太陽の匂いとか、そういうのが鼻先を掠めるその少しツンとする暖かい香りに目を細めると青い海がキラキラ光る。走っている間の船はあまり揺れないし、船酔いという船酔いもあまりなかったためか案外船に体勢があるんだなあなんて、ぼんやりと思ってしまうほど出そうな欠伸を噛んで飲み込む。なんか胃がぷくってした気がする



「 あれ?浅葱、何してるの? 」

「 休憩してるんだよ、カノンノ 」



今じゃ誰が誰の声かなんてすぐにわかってしまうほどにここの生活に慣れてしまった。こう誰かに言ったら笑顔で頷いてくれるんだろうか。そう思いながら振り返った先、ピンク色の可愛らしいおくるみを抱えた、カノンノがニッコリと笑って



「 ちょ、誰の子!? 」

「 え!ち、違うよ!これは、私のお母さんが作ってくれた私のおくるみ! 」

「 つ、つまり、カノンノに子供が出来たから、その封印されしおくるみを使うときが来たという事なんだね?! 」

「 ちがう!ちがうの! 」



カノンノに手を出した命知らずの野郎がいるのかと思いました。あまりにも母親になったばかりの幸せそうな顔に似ていたために少し焦ったけれど、そうだよね。冷静に考えてみればそんなことこの船最強の母パニールが赦してくれるはずがない。よかったよかった。私は最愛の妹を守るという使命を抱えた家事戦士だしな。使命感に傷をつけるところだったよ、まったく



「 って、カノンノのお母さんが作ってくれたおくるみ? 」

「 うん 」

「 そう、か 」



もうあのイベントは通り過ぎたんだな。と思うのと妙に悲しい気持ちが胸の下をじわじわと熱くする。パニールは自分の寿命の話を、既に済ませていたんだ。そうだとしたら、



「 すっごく、あったかいんだよ 」



複雑な心境なんだろうな。
こうやって嬉しそうに笑っているけれど、胸のうちはきっと



「 浅葱みたいに、パニールみたいに、あったかくて 」

「 私や、パニールみたいって 」

「 エールもね、そう言ってたんだ 」

「 エールも…? 」



おくるみを抱きしめたまま少し切なそうな顔を見せたカノンノに私は、小さく笑みを浮かべて優しい表情を作り出そうとする顔の筋肉がピシィと音を立てて止まる。暖かいと言ってくれるこの子たちに私はどうしていいのかわからなくて、でもそのおくるみに触れたらわかる気にもなりそうなその瞬間、私は



「 私やエールが暖かいって思うのは、なんでなのかな? 」

「 パニールは育ての親、だからだよ 」

「 『育ての親』? 」



泣きそうなほど、胸が苦しくて



「 育ての親って言うのは、生んでくれた親ではなく、物事を教えてくれたり一緒に生きてくれる親みたいな人の事。親は、いつでも暖かいでしょう? 」

「 うん、あったかいよ。パニールはいつも、いつもあったかい。でも、 」

「 なに? 」

「 浅葱は、どうしてそんなにもあったかいの? 」



その言葉にほんの少しだけ胸がビリビリって痺れた。うまい事を言うのならば『エール』と名づけたのは私。だから名づけの親は私だから。と答えてしまえばこれはあまりにも真実すぎてきっとカノンノには受け入れられないんだろう。だから、



「 お姉ちゃん、だからだよ 」



真実に近い嘘を吐く。
お姉ちゃんだからと、また嘘をついてもなおこの子は、この船で私を姉だと思ってくれる人達はきっとほんの少しでも『暖かい』と私のことを思ってくれるんだろうか



「 そ、っか。浅葱は私やエールのお姉ちゃんだものね 」

「 うん。お姉ちゃんは妹達に厳しく甘く!そして暖かさを注いじゃうんだからね? 」

「 厳しいところは見たことないけどなあ… 」

「 ふふー、それはカノンノがいい子だからです 」



触れるつもりだったおくるみを通り越してその桃色の髪に手を伸ばす。
そっと、ゆっくりと



( 洗濯物の匂いがするよ )
( 休憩前は干してたからねえ )
( ふふ、浅葱って本当にあったかい )
( 冷たかったらきっとジェイドに氷の術式で苛められた後だね )
( なんで? )
( 冷や汗さえ凍るから )

11/0315.




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