「 ただーい、ま? 」



カツカツカツ、とカッコよく聞こえるように足音をさせながら帰ってきたというのにホールのなかでドラゴンボールが輝いたみたいな宝玉を掲げたエールが嬉しそうに舞い踊っていた。なんですか神龍を呼び出す儀式ですか。お姉ちゃんを軽くスルーですか、いやあ、なんというか悲しいと言うべきであろう状況でスルーされすぎて傷つきそうだ



「 あ、お客様ですね。本日はどのようなご用件、で 」

「 おいおい、どうしたんだよルビア。いつもは言葉なんて忘れないだろ?って、 」

「 お、ねえ、ちゃん? 」

「 え、なにその皆一時停止なの?ちょっと、いつもどおりのつもりなのに、何か変? 」



貴族の皆様みたいに全身を覆わず、スラッとしたドレスに二の腕防止のボレロ。スリッドが入っているから走りやすくて便利だなあアハハとかそうやって私の気持ちを誤魔化していたのにここまで一時停止されるとなんというか複雑なんですが。皆、いつもそうやって私が変わった服を着ると目をそらすんだ。いじめか。そんなに似合わないか!自覚はあるんだぞ!



「 浅葱、です? 」

「 そうだよ!?え、何か変?それとも何か変な部分でもある?そりゃ、普段は面倒くさくて化粧も薄くしてるからちょっと今回のは厚いかもしれないけど 」

「 浅葱お姉ちゃんとっても綺麗だね!すっごい綺麗! 」

「 …会う相手が会う相手だったために仕方がなく着たのは好評、だったのかな 」



このヒールもモデルさん歩きを見よう見まねでしていたのも、自分の羞恥心を隠すためだ。ドレスなんて実際着る気もなかったし、着替えて帰ってこようかと思ったら急がしそうなメイドさんが笑顔で『差し上げます』というもので着替える事も出来ずに帰ってきてしまったんだけど



「 それで、エールの持っているのが光を灯したルチルクォーツ? 」

「 そうなの!きれいだよね!科学部屋に返す前に皆に見せようと思ってずっとここにいたんだけど、優しい光でなんだか懐かしいんだ 」

「 懐かしい、か 」

「 うん。浅葱お姉ちゃんは懐かしい? 」

「 私は、眩しい、よ 」



その淡い純粋な光が眩しいだなんて口に出したらこの子は首をかしげるだろう。今はルチルクォーツを抱きしめながら私と笑顔でおしゃべりをするこの子の笑顔を止めたくはないのでただニッコリと笑いながらそう呟いた。



「 そっか、眩しい。眩しいけど、優しいよ? 」

「 優しい? 」

「 お月様みたいな光だってスタンは言ったの。わたしね、お月様の光はとーっても優しいんだと思うんだ 」



優しいってどういうことだ?
お月様の光が優しい、って事?いやでも、光は光だしな…



「 お月様がわたし達に光を分けてくれるからわたし達は夜の道も歩けるんだもん。照らしてくれるって優しいと思うの 」

「 …うん、優しい 」



私を照らしてくれるような光がエールだという事に気付かないまま、また笑う。君が居るから私はここまで必死になれた。君が照らしてくれた場所を道に変えながら君を手招いて導く。そんな私の役目のようなものをどう思うかはわからないけれど



「 このルチルクォーツも、世界樹を照らし出してくれたら嬉しいのにね 」

「 …世界樹、照らせるかな? 」

「 きっと、照らせると思うよ。だから、私達は今必死になっているんだもの 」

「 そうだよね!頑張らなくちゃ 」



目の前で意気込んだエールの頭を撫でながら私はやっと一息つく。流石に陛下と話すとなるとシャンとしなきゃいけないと思っていた力がどんどん抜けていってそのままエールを抱きしめると嬉しそうな声がホールに響く



「 お姉ちゃんお疲れ様! 」

「 エールもお疲れ様。お姉ちゃんはもうこんなドレス着たくありません! 」

「 ええ、似合ってるのに… 」

「 まあ、頂いてしまったので。体系維持を努力します 」

「 たいけーいじ? 」

「 エールには関係ないような話さ… 」



私はそう言ってからお腹を見て顔を上げると女性陣が暗い顔をしていた。多分皆も気付いている通りこの子は太らないのだ。お腹のぽっこりは思いっきり食べたあとくらいで30分すれば平らになってしまうこの子のお腹。羨ましいというか恨めしい。くそう、私もそんな風になりたい!



( もう少し抱きしめてていいですか )
( え?だったら、わたしもだきしめる! )
( おー、お腹はソフトにお願いします )
( はーい )

11/0305.




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