待合室で待つこと2時間。扉の外から聞こえる忙しそうな声と『陛下がまた仕事から逃げ出そうとしているぞ!』という声をもう何度聞いたんだろう。逃げすぎだ早く仕事しろ。と一回言って差し上げたいくらいの気持ちだけど、なぜか私はふかふかのソファに座らされて冷たくなる前に紅茶を替えられてしまう。それにジェイドの見送りは城の兵士に任せられて知らない兵士と無言で長すぎる廊下を歩くなんてもうトラウマだ。怖い。



「 悪い、待たせすぎたな 」

「 あ、いえ。廊下での声を聞いているだけでさほど時間間隔はありませんでしたから 」

「 …それほど退屈だったって事だろう? 」

「 退屈とまではいきませんが、窓の外の景色を見る限り自由がないように見えて少し悲しく思いました 」



陛下が座るのを見てからゆっくりすわるとやっぱりアビスに出てきたピオニー陛下は気さくな方らしく明るい表情で話してくれる。一応聞いてみたい事は沢山あるけれど、おめかしまでさせられて、着飾らされた私としてはなんというか複雑で言葉が出てこない



「 冷たい顔するなって。別にそういう顔をさせるつもりでジェイドからお前のことを聞いていた訳じゃないんだから 」

「 ジェイドから、私の事を?それは、私の秘密について、でしょうか 」

「 一通りはな 」

「 …では、私になにをさせようと考えているのですか。 」



だんだん冷たくなる声色に気付いているのかピオニー陛下は苦笑する。
こっちは緊張のしすぎて紅茶も飲めないくらい胃がキリキリしているって言うのに!くそう余裕めいたその表情が恨めしい!



「 確か、浅葱、だったか 」

「 はい 」

「 とりあいず、今から敬語はやめろ 」

「 ですが、立場というものを弁えるのが 」

「 皇帝勅令な 」

「 …わかった、けど 」



この男は一体私に何をさせようというんだ。優雅に紅茶を口に運ぶ姿を見る限り本当に警戒心がないというかその紅茶に私が何か細工を施していたらどうするつもりなんだろう。原作での人柄がわかっているから私は何もしなかったけれど実際私が追い込まれていたら彼をどうしていたか



「 そんなに怖い顔するなよ。さっきから言ってる通りそんな顔をさせたいわけじゃない 」

「 では、どういう… 」

「 いや、正直な話他の国とこっそり文通してるんだが 」

「 私にばらしていいのかそれは! 」

「 お前のことなんだよ 」

「 …私の? 」



私の事をこっそり文通する国王達。
なんてシュールな絵なんだろう。考えるだけでも微笑ましく思う。



「 お前がもし、この世界で暮らす間、いやもしかしたらここに残れるかもしれないだろ? 」

「 …まあ、可能性は一%もあるかわからないけど 」

「 国籍をどうするかって今話をしてるんだ。で、俺のグランマニエと、今そっちの船に乗ってるエステリーゼのとこの国があるんだが、やっぱり本人の問題だろ? 」

「 …エステルの事、気づいてたんですか? 」

「 あの国も今大変だからしょうがないとは思うが 」



いや、だから内情を私にこんなにも話していいのか?でも内情を話すという事は国王の秘密の片棒を背負わされていると考えてもおかしくはない。だとするとこれは陛下の作戦だと深読み、したら、これって



「 そこまで話すという事は陛下の国かエステリーゼの国に籍を置かせるつもりですね 」

「 …ジェイドより少し劣るが、頭いいなあ 」

「 深読みと妄想は得意分野だからね 」

「 はは、やっぱり聞いていた通り面白いな。どうだ、そっちの事情が一通りすんだら一緒に住まないか?養子でも嫁でも構わないが 」

「 …陛下、お言葉ですが 」



嬉しいような策略的過ぎるような気がするけれど、私は笑みを浮かべる



「 国籍はまだ考えられませんし、なによりも 」

「 なんだ 」

「 私の居場所は、ここではありませんので。また時がきましたらその件を話し合いましょう? 」



思わず敬語で言ってしまったその言葉にはっとしてピオニー陛下をみると彼は腹を抱えて震えていた。なんか笑ってるんですけど!私なんでこんなに笑われてるんだろうか!メイドさんたちに無理やり着せられたこのドレスが似合わないんだとしたら、ああ、なんで始めに入ってきた時に言ってくれないんだ陛下!



「 弱そうな姿して芯が強い、な。確かにジェイドが気に入る訳だ 」

「 気に入る?いつも貶されてるのに 」

「 お前も貶してるだろ? 」

「 ある意味のコミュニケーションですからねぇ 」



また紅茶を口に運ぶ陛下に私は眉間に皺を寄せた。いい人なんだろうけれど、なんか読めないところがあるというかたまに子供っぽい所が多分素直だとすると完全に陛下モードの崩れないこの陛下は本当に国籍の話をしたかったのか、それとも



「 仕事サボりたかったんですか? 」

「 !…な、なんで、それを 」

「 サボっちゃ駄目だよ。大臣達も困ってるんじゃない? 」

「 ちょ、ちょっとまて、それはジェイドに言われたのか!? 」

「 違うけど、廊下からの声、聞こえてたと私は言ったんだけどなあ 」



そう言いながら空っぽになったカップをおいて、立ち上がる。
私はこれから帰ってやらなくてはならない事しかないのだからこんな動きにくい格好をずっと来ている訳には行かないのだ。早く脱ぎたい



( そういって扉を開けると書類の束を抱えた大臣達が泣きそうな顔で見ていた )
( 私が、笑顔でその大臣達の横を通り過ぎると駆け込む大臣の姿 )
( …あの人どれだけ仕事溜め込んでんだ )
( 大事な書類だろうに )

11/0305.




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