せっかく気分よくお風呂に入りながらリフィルに世界樹復活の方法を聞いていたというのにエールが慌てたように飛び出していくのを追いかけてきてしまった。だって、タイルで足をすべらしたりしたら危険だと思って呼び止めたのにそのまま走って行ってしまうんだもの。そしてバスタオルで拭き終わった身体から着替えへ手を伸ばしたんだけど



「 あれ?浴衣置いてたっけ? 」



下着と浴衣のみでどうしてかいつもの寝巻きがない。今日のシャツとかは全部洗濯回収籠に放り込んだけれど流石に寝巻きを放り込む訳がないだろう。そんな事をしていたのならカップラーメンにお湯を注いで思わずひっくり返してしまうほどの衝撃だ。それに言葉をつけるのならば『あれ?疲れてるのかな』くらいのことなんだけど。まさか、のまさかであの子が私の寝巻きを持って走っているところなんて、



「 エール待ちなさい! 」

「 やだ! 」

「 寝巻き返して! 」

「 ちゃんと置いたもん! 」

「 足が落ち着かない! 」

「 やだ! 」



颯爽と浴衣に着替えて細帯を締めた私がバタバタと駆け出してしまっているが今の私に不足はない。あるとすれば、寝巻きくらいで片手にタオルを装備して追いかけている。あの子毎日ろくに髪を乾かさずに寝るために流石に拭いてあげないとシーツが冷たくなって眠れないんじゃないんだろうか。早く捕らえなくては!



「 なんで、生足晒さなきゃいけないの! 」

「 わかんない! 」

「 膝上の浴衣なんて、浴衣なんて、私、足出して、せっかく隠し続けてきたのに!エール、早く返して、 」

「 お姉ちゃんは大丈夫 」

「 褒められた気がしないというか、エール風邪引くから、本当にこっちおいで 」



お願いだからホールの中まで追いかけさせないで。思わず浴衣に下駄という謎のセットで追いかけてしまってちょっと恥ずかしいというか黒塗りの下駄が妙に眩しいんだって



「 よお、浅葱なにして、 」

「 …ひぃぃいいい!! 」

「 浅葱ちゃんどうした?大声なんてだ、 」

「 もうやだ、帰る! 」

「 ちょっとこっち向いてみろって、 」

「 す、スパーダ、女は後姿が一番綺麗なんだよ、 」



ユーリ、ゼロス、スパーダときたらもうこの男が続いて出てくるんだろう。ガイラルディア・ガラン・ガルディオス。もとい、ガイ・セシル。彼のトラウマを私が根強く傷つけてしまったらどうすればいいんだ!私はどう責任をとればいい!微妙にぬれてる髪は冷たいし、首元に張り付いて気分が悪い!くそう、くそう!



「 浅葱、怪我でもしたのかい? 」

「 心の大きな傷を、負いました 」

「 とりあいず、そこは人の通りが多いしひとまずホールに 」

「 ガイ、やめて私をさらさないで! 」



思わず顔を上げてしまってからガイが固まった。ピシリとしっかりと音を立てるように停止した彼は私に手を差し出す最中だったらしい。廊下になげだされた生足を恨めしく思いながらゆらり、と立ち上がりエールの肩にそっと手を置く



「 お、おねえちゃん? 」

「 エール、今すぐそれを返さないと 」

「 …浅葱、おねえちゃ、 」

「 返してくれないと、明日の朝にはいなくなるよ? 」

「 !! 」



肩を揺らして私に差し出すその黒い寝巻き。ことボディースーツ。たしか誰かのお下がりだった気がする。サイズが会わないから寝る時にどうだって渡されてそのまま受け取ってしまったのが最後だったんだろうか。それとも浴衣を着てしまったのが間違いだったんだんだとしたら、この太股がいけないんだな。見られないようにボディスーツで太さ隠してたのに!



「 浅葱、はだけてるわよ? 」

「 あ、ああ、ルビア、もういいんだ… 」

「 浅葱?どうしたんで…浅葱、ちょっと直しましょう?妙に色っぽくなってます 」

「 もう…終わったんだ 」



浴衣の裾をひっぱって太股を覆い隠そうとしても見えるその格好に、息を吐く。色っぽさなんて男らしさしかない私に一体何を描くんだろうか。流石に蚊にさされた時のあれがあったばかりなのにそこまで想像が働くようなギルドメンバー達ではないだろう。だってルビアは普通だったし、エステルも多少心配してくれたくらい、で



「 何赤くなってんだ、お兄さん方 」

「 …いや、その格好 」

「 なに 」

「 脚、触っても 」

「 触れたら焼き殺すぞ、スパーダ 」

「 早く着替えてきた方がいい。風邪を引くよ 」

「 ガ、ガイ…言葉と真逆に視線それてる… 」



彼らの想像力は無限大なんだろうか。
ほんの少しというよりかは、一瞬だけ尊敬してしまいそうな気持ちになったんだけど



「 浅葱、後は任せて着替えてきなさい 」

「 え、クラトス? 」

「 そうですね。本当に風邪を引いてしまいますよ。エールをつれて髪を乾かしてきたほうがいいでしょうね 」

「 ジェイド、まで 」



互いに武器を構えたパパ組を久々に見たような気がするのは、気のせいではすまないとおもう。私達が移動した瞬間に一体何が起きるのかなんてことは簡単に理解できるし、彼らがすることも予想をしなくても簡単に浮かんでしまって、思わずエールの手をつかんだ



「 後始末は任せろ。殺さないようには努力する 」

「 ええ、必要以上に手が滑らないように気をつけますから 」

「 …え?なにかするの? 」

「 そうですねえ…ちょっとした、ゲームです 」

「 …うん? 」

「 ほら、エール早く乾かさないと風邪を引いちゃうから 」

「 …わかった 」



エールの手を引いて廊下から出ると扉が閉まっていく。その隙間から見えたのは確か、般若のような顔と、無上無慈悲を模った鬼がいたように見えました。気のせいかもしれません。いや、気のせいであって欲しいと願うけれど、でも不謹慎な格好をしたのは私だと思うし、その脚とかまあ、



「 浅葱お姉ちゃん?なにか忘れ物した? 」

「 ちがうよ!なにもないよ! 」

「 じゃあ、いこ? 」

「 そ、そうですね! 」




( あの場所に戻れない事は私だけが知っている )
( 戻ったら気のせいにはできないことも )
( 彼らがどうなっているのかを確認してしまう事も )

11/0304.




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