「 雨、降ってきちゃった 」



買い物袋を抱きしめながら思わず呟いてしまった。今日は大分オマケしてもらったし、街のおじさんなんて気前がよすぎるくらい値引きをさせてしまったのに、雨。ポツンポツンと落ちる雨の音を聞きながら息を吐くと、少しだけ白くなって消えてしまって、せっかくの食材が濡れてしまうのは嫌だから雨宿りをしてみたけれど、やみそうにない



「 ねえねえ、お姉ちゃん、雨困ってるの? 」

「 …へ? 」



ぎゅ、と握られた小さな手。視線を下げると見えたのは、小さな男の子。赤い鼻をしながら私の事を見上げているその男の子にゆっくりと微笑む見ながら「少しね」と返事をするとにっこりと男の子が笑う。この世界色の可愛い可愛い男の子はなんだか微笑ましい



「 じゃあ、遊ぼう? 」

「 でも、雨が降ってるよ? 」

「 大丈夫、おうちの中で遊ぶから 」

「 おうち?ここ、教会じゃ… 」



教会のでっぱりを雨よけにしていた私としては助かるけれど神を信じていないというか必要な時にしか便りにしない所為か入りがたい雰囲気だ。



「 こーら。お姉さんが困っているじゃない 」

「 でも、雨降ってて雨宿りしてるんだから時間あるよね? 」

「 構わないよ。でも雨がやんだら帰らないと私の大事な妹が心配しちゃうの。だから、少しだけだよ? 」

「 ほんとう?! 」

「 すいません… 」

「 いえ、いいんですよ。ここで出会ったのも何かの縁でしょうから 」



ニッコリと笑うと男の子がニッコリと笑って中へとひっぱってくれる。可愛い可愛いと急く気持ちと雨だからって迎えに来てくれた人がいるんじゃないかという不安で複雑になるけれど雨が止んだら帰ればいい。雨が止むまで店の中にいたとか嘘をつけば多分誤魔化せない事もないだろう。それにこれは明日のご飯用の食材だし、



「 ここの教会の、娘さんなんですか? 」

「 …似たような、ものなんですけどね。私を育ててくださった神父様が孤児の私を引き取ってくださって育てていただいたんです。この子達も、そうなんですが 」

「 神父、様の 」

「 温かな人ほど、失うのは、早いんですよ 」



視線を落とした娘さんに私は声をかけることが出来なくて、頷くだけだった。頷いてどうにかなるのかという問題ではないとしてもどうしても何かこれといった言葉が浮かばない。気の聞いた言葉が出てこないまま、孤児の子供達に手を振ると向こうでニッコリと笑う小さな子



「 お嬢さん 」

「 はい、って、え? 」

「 私、ギルドのほうで働いていまして資金を孤児院に寄付するのが唯一の楽しみなんです。どんな風に使われるのかなあとか考えながら渡すことが、ですよ? 」

「 こ、こんなに頂く事は、できませ 」

「 いえ、タダでとは言いません 」



後ろで扉が開く音が聞こえて私は静かに教会の十字の前で膝立ちをして胸の前で指を組み合わせた。



「 神父様の代わりに私の懺悔を見届けていただけませんか 」

「 …な、ぜ 」

「 見届けるだけで構いません。貴女様に私の懺悔を見届けていただきたいのです 」

「 ……わかり、ました 」



時に嘘をつくことは大事だと思う。私がこの世界のお金を持っていても使うことはほとんどと言ってないし、武器も新しくしてしまって買うものなんてほとんどない。それにチャットが未だに私の現金を預かっていてまだ消費し足りないほどだ。だったら、必要な場所に捧げるのも一興、という考えでそっと目を閉じる



「 私は、沢山の人へ嘘をつきました。私の気持ちとしてはその嘘は正しいものだと思っていたのですが、思わぬことに大切な人達を泣かせてしまったのです。神はそんな私の事を戯言だと笑うのでしょうか。それでも私は、ここで赦しを乞いたいのです 」

「 …貴女は、泣かせてしまわれたのですか 」

「 ひどい事をしたと、思っています 」

「 神は貴女を赦してくださいますよ。このように私の前で告白してくださったのですから 」

「 …ありがとうございます 」



それは勇気という意味だったんだろう。正直に言えば神など信じていないものがここにきてしまったのもただの雨宿り。そして、嘘をつきながらの何か為になればいいというお金を渡すための演技。神がいるとしたらもっと違うところに目を向けるべきなんだろう



「 お迎えが来ていますよ 」

「 …え? 」



黒髪に、アメジスト色のショートカットのお姉さんがそこには、



「 なにやってんのよ、懺悔なんてあんたらしくないことしちゃって 」

「 私だって告白したい事があったし、何か口に出さないと収まらなかったんだって 」

「 へーえ。本当にらしくないわね 」

「 そりゃどうも。じゃあ、失礼します 」

「 あ、はい 」



教会の扉を閉めて、出た先で窓から手を振る小さな子供。その子供に手を振り返すとニッコリと笑みを浮かべて幸せそうに笑う小さな子。その子を見て寂しそうな目をしたルーティは、はっとしたように表情を戻して窓ガラスに触れそうになっていた手を離した



「 お金、渡したの? 」

「 うん。パニールに預かった分以外はね。あとは預かってもらってるし、なによりも使いきれない気がして 」

「 お節介になってなきゃいいわね 」

「 そうだねえ 」




( 親は何処へ行ったのか、聞かない子供達 )
( 自覚をしているのか、あのお嬢さんが親代わりなのか )
( わからないまま、寂しげに俯くルーティ )
( 悲しげなその顔の目は強く輝いて見えた )

11/0304.




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