「 浅葱、さん 」

「 パニール?どうしたの、瞼はれてるよ?タオル濡らしてくるから少し待ってて 」

「 すいません… 」



食堂で仕事を仕様としたらしくしくとパニールが泣いていて。正直に言えば頭の中でしっかりイベントを思い浮かべていた私というのはずるいのかもしれない。ずっとここで泣いていたとしたらおなかのすいた皆はどうしていたんだろうか。食堂前にリリスとかいなかったし、今は買出しに行ってる、とか?そうだったらまあ、心配かけないように一人で泣いててもおかしくはない、かな



「 それで、何かあった? 」

「 …浅葱さんは、カノンノのこと、知ってらしたの? 」

「 うん。知ってたよ 」

「 そう、なのね 」



ここで、出会う前からずっと。ずっと知っていたよ。
今、嘘じゃない本当を普通に吐いてしまったから、少し心が軽くなるけれどパニールがへこんでいるのを見て喜べないのでタオルを優しく当てる。タオルをパニール自身がおさえ始めたら暖かい紅茶の準備をしよう。飲まなくても香りで少し落ち着くかもしれないし、



「 あの子はエールさんと貴女に懐いているから 」

「 パニール、今話したいことは、それじゃないでしょう? 」

「 …浅葱さんには、なんでも見通されちゃうわね 」

「 ニアタ・モナドに向かうときのあの不安そうな顔とか、カノンノが泣いて帰ってきた時の戸惑いとか、気付くには理由がありすぎるよ 」



暖まったカップに紅茶を注いで、テーブルの上に静かに置いた。せっかく落ち着いてきた気持ちをビックリさせる訳にはいかないので出来るだけ静かに。ガチャンっておいたら流石に食器にも負担がかかってしまいそうだ



「 それに、初めて私がこの世界に来て、記憶喪失だと信じて私に『物心ついたときからパニールと一緒』だって言ってくれたからと言ってくれたんだが、やっぱりそういう事か? 」

「 ええ、両親のことで、 」

「 本当を、教えてしまったの? 」

「 …私のせいで、あの子を傷つけてしまったのよ 」



小さく肩を揺らして泣き始めるパニールに私は、ゆっくりと微笑んだ。なるべく温かな顔つきで話を聞こうと思っていたのにどうしてこうも彼女の話を聞いていると、胸がチクチクするんだろう。傷つけたという言葉がどうしても私の胸が痛む。



「 でも、それはパニールがカノンノを傷つけないようにって思った嘘だったんだよね? 」

「 それでも、結果的にはカノンノを傷つけたのには変わりないわ 」

「 カノンノを思って、その嘘をついて、嘘をついている間パニールは傷ついていたんだったら、 」



嘘をつけば嘘をついた方が一番最初に傷がつく。大切であれば大切である事ほどその傷はあまりにも深く私やパニールを傷つけたんだろう。私は今でも、あの子が私を信じて『ずっと一緒』という言葉を言うたびに、切ない気持ちになる事を知らないまま。信じてしまっているのだから



「 その傷は、同等のものだよ 」

「 例え、同じだとしても私は、 」

「 パニールはそれを幼いカノンノに良かれと思ってやったこと。それがカノンノに伝わるかどうかは、パニール次第だと思うな 」

「 …私、次第? 」



どんな形だとしても、パニールはカノンノのお母さんだという事を、忘れないで欲しい。もちろんエールにとってもお母さんのように思っていることもあるかもしれないし、何よりもパニールはこの船にいる皆のお母さんのような存在である事を忘れて欲しくないんだよ。私にとっても、そうであるように



「 カノンノにとって生みの親と育ての親は違った。だけど、どちらも大事なのはカノンノもわかっていると思うし 」

「 …、 」

「 その育ての親はパニールだってこともわかってると思う。例え、傷つけたとしてもその気持ちをわかってくれたならパニールの育て方は間違ってなかったって事だよね 」

「 ! 」



私もパニールも育ての親みたいなもので。カノンノとエールの成長の仕方もある意味私と彼女の問題みたいなものでもある事に今さらながら気付いてしまった。同じようなことをしているから、私は彼女の話にこんなにも胸が痛むのか。そうだとしたら、結果の知っている問題と知らない問題を突きつけられたみたいだ



「 ほら、パニール。可愛いお客さんだよ 」

「 え、 」

「 パニール、あのね、 」



席を立って食堂をさっそうと出て行く私に聞こえたのは、



( 浅葱、食堂に行ってきたの? )
( あ、うん。クレアとリリスは買出し? )
( ええ。パニールが悲しそうな顔をしていたから少し居づらくて )
( だったらもう大丈夫だと思うよ。あと5分もすればニコニコしてるはず )
( 何かしてきたの? )
( うん?これといったことはなーんにも? )

11/0303.




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