ずっと手をつないだまま私達は甲板に座り込んでいた。体中の水分がなくなってしまうんじゃなかって、甲板が水浸しになるかもしれないほどにカノンノはずっと泣いていて。私はそれに声をかけるわけでもなくただ隣に座って手を握って、頭を優しく撫でてあげるだけ。本人が声を出さない限り私も、声をかけることもなくただ手を握り締めあう



「 浅葱、ごめんね 」

「 うん? 」

「 私、迷惑かけちゃったから 」

「 可愛い妹の迷惑はお姉ちゃんが受け入れるもんだよ 」



可愛い妹の迷惑を他の男になんかに背負わせたくは無い。むしろ、そのせいで変な男に捕まってしまったらと思うだけでムカムカします。胃が。



「 じゃあ、浅葱の迷惑は、誰に受け入れてもらってるの? 」

「 え 」

「 一人で溜め込んでたりしないよね 」



ある程度は溜め込んでますけれども、まさかそういう話題で帰ってくるとは予想だにしていませんでした。私の迷惑を受けて入れてくれたのはきっと船の全員で、船の全員の中でもきっとハロルドとジェイドとクラトスかもしれない。でもよくよく考えてみると21歳チームにも酷いくらい迷惑と暴言を吐いた記憶も新しいし、迷惑を撒き散らしている可能性が…



「 溜め込むどころかもっと凄い事してるかもしれない 」

「 凄い事? 」

「 迷惑を撒き散らしてるかも… 」

「 …撒き散らすって、 」



くす、っと笑みを浮かべたカノンノに私が微笑み返す。でも可能性としてはありえないわけではなく、ありえるから私としてはちゃんと笑う事は出来ない。本当にそうだとしたらどうしよう。どうやって償ったらいいんだ…!



「 浅葱はそんなことしても、皆の迷惑を受け入れてそうだから大丈夫だよ 」

「 …じゃあさ、 」

「 なに? 」

「 余計にカノンノのも受け入れなきゃいけないね。カノンノの迷惑を 」



皆のを受け入れているとしたら、君のも受け入れる。
平等主義を主張させていただこう



「 だって、私は浅葱になにも迷惑かけてもらってないから 」

「 ううん。私は船の皆にかけたんだよ。大きな嘘っていう迷惑を 」



その嘘を始めについたのはカノンノへ。君が始まりであったのだから君を一番最初騙したのは私だし、皆以上に迷惑をかけてしまったのは私だ。なによりも、私は君に命を救われている訳なんだから悩みくらいきかせて欲しい。きかせてもらえなくても必要だと思うときくらい呼んでくれ。傍にいるから



「 あれは、もう無効だよ 」

「 そんなことはないよ、まだ有効。それにその問題が無効だとしても私はカノンノに助けられてるんだから 」



きっと一生忘れはしないだろう。あの瞬間を。あの場所から私のこの人生は始まってしまったし、人に助けられてから始まる話なんて日記でも絵本にでもなんにでもしたらきっと3冊くらいは売れるんじゃないんだろうか。



「 命を、身体を君に助けてもらったのを私は忘れてないもの 」

「 そんな、大げさなことは、 」

「 ううん。大げさじゃない。だって、あの時カノンノが助けてくれなかったら 」



私はここには、いられなかったから



「 この世界での家族を知ることはできなかったんだよ 」

「 …家族、 」



ポツンと呟いたカノンノの頭の中に今もニアタのことが浮かんでいるんだろう。その話を私には言えないことだとしても、エールにだけは悲しむ理由をいつか話してほしい。



「 あのね、カノンノ 」

「 うん? 」

「 カノンノが話そうって思ったらいつでも話を聞くからね。暇ならいつでも作るし、可愛い妹の悩みを受け止められないおねえちゃんにはなりたくないから 」



本当に、いつでもいいの。いつでもいいから、君の心の内を話して欲しい。私と手をつないでいる君の言葉で、君だけの気持ちを



( 考えそうになってやめた )
( きっと知ることのない答えだと思うから )
( 君の手を握るだけで精一杯の私は、未来を見れないと )
( 心の奥で私が呟く )

11/0302.




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