「 そうか。我々の故郷、ディセンダーの因子を受け継ぐ世界へとうとう巡りあったのだな 」

「 ……… 」



そんなニアタの声に怯えるように私の手を離して身体を抱きしめてきたカノンノの背中をゆっくりと擦る。小さな声で、優しく『傍にいてあげるからね』と気休めでも声をかけながら、傍にいて何が出来るんだ!って言われたら困るけれどこうやって抱きしめ返してあげること以外何も出来ないんだよ。お姉ちゃんが無力で、ごめんね



「 恐がれないでおくれ。そなたは、この世界でのカノンノなのだな 」

「 …っ、 」

「 そして、そこにいる『光まとう者』。そなたがこの世界のディセンダーか 」



また、カノンノから小さな嗚咽が漏れる。ディセンダーと呼ばれて頷くエールは妙に力強くて少し安心できるけれど、この抱きしめている小動物をどうすればいいのか思いつかなくて、抱きしめたまま顔を上げないカノンノの頭を撫でる



「 どこにいるの?姿を見せなさい 」

「 我々に姿は無い。そなた達が立つ所、この空間全てが我々の身体 」



この建造物全てがニアタであり、彼らである。簡単に言えばそうなってしまうけれど、リフィルがずっと上を向いて話しているのを見る限り首が疲れてしまうように感じるのは私だけなんだろうか



「 我々は、ディセンダーと我等が故郷の世界『パスカ』を永久に見届ける為に肉体を捨て、機器に宿った精神集合体だ 」



初めて聞いた時、この台詞に鳥肌が立った。今もぞわぞわとするけれど、あまりにも深すぎる愛を見ると鳥肌が立つんだって初めて感じた時だった気がする。私が見て、聞く限り、あまりにも深すぎて愛しすぎた『パスカ』の人達の気持ちに吐き気さえも覚えそうなほど、重くて



「 精神集合体、ですって?それで『我々』と呼ぶのね。つまりあなたは異世界の存在なの? 」

「 左様…。故郷の滅した後も我等は朽ちる事無く、こうして様々な世界を見届けている 」



立ちくらみさえもしてしまいそうな深い感情。ニアタの異世界の存在という言葉にエールが私を見たけれど私はゆっくりと笑みを浮かべて誤魔化した。このニアタの感情には、本当に触れない限りきっと、ずっと、頭痛さえも起こしてしまうだろう。それほどまでに、



「 来るがいい。我等がディセンダーの玉座まで… 」



愛を、思う
深い愛を。



「 おねえちゃん、カノンノは…?! 」

「 まだ、震えてる。でも、大丈夫のはず 」

「 浅葱、それはどういうことなの? 」

「 ここにくる事は、覚悟していたはずだから 」



覚悟してきた方が立ち直れる。早いも遅いもなくて、絶対立ち直れるから。リフィルだって、エールだってこんなにも心配してくれて、余計なお世話みたいに感じるかもしれないし、私の言葉さえもうっとおしいほど追い込まれているかもしれない。だけど、



「 カノンノは絶対、立ち直れるから 」



パスカのカノンノは、あまりにも傷ついた。だから、彼らはその代償としてこの形になったのかもしれない。あのカノンノは、あまりにも酷い傷を負ったのだから



「 一歩踏み出すのに時間は掛かるのは当たり前だよ 」

「 浅葱お姉ちゃん、そうだとしても、 」

「 エール。大事なのは歩くじゃなくて、歩き出そうとすることなんだ 」



傷を負ったカノンノは皆、いつでも歩いていた。どこか悲しい顔をしながらも必死に歩いていたから、私はこの子に手を差し伸べる。例え、私がテレジアの世界にいても、パスカにいても『カノンノ』に『ディセンダー』に手を差し伸べたんだろう



「 カノンノ、 」

「 …っ、浅葱、 」

「 泣いてもいいんだよ 」




( 私は、知っているから )
( 彼女も今の君も )
( その優しさを、傷ついた理由も、わかっていたから )
( パスカの君もグラニデの君も、全部優しいカノンノだったって )
( 傷ついても立ち上がる強さを持っている事も、ね )

11/0228.




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