たった一振り。刀を振り下ろすたびに『浅葱お姉ちゃん』と呼ばれた気がして。あの子が笑っているような気がして、私が頑張ればあの子は笑っていてきっと今いる皆やあとからくる皆と笑っていられるんじゃないんだろうかって考えてしまう度に指に肉刺(マメ)が出来て。エールが笑っていられればそれはきっと私も幸せなんだって思いこむしかできないから、帰りたいなんて口に出せなかった。



「 馬鹿か私は 」



自分自身に皮肉を言える日が来るとは思わなかった。何してんだよ自分、だとか思って笑えればまだ良かったのに笑えない皮肉なんて楽しくなくて一人追い詰められるのが苦しくて、自分が今こうやって刀を振るっているのも嘘のよう



「 浅葱? 」

「 ! 」

「 浅葱、何してるの? 」



すぐにしまった刀身。私がゆっくりと振り返れば銀髪の髪が暗闇の中で揺らめいた。多分ルカだとは思う。不思議そうな声色で近づいてきたルカを横目に私は息を吸い込む



「 ルカこそ、どうしたこんな夜中に 」

「 眠れなくて、外の空気を吸いにきたんだけど… 」

「 …悪い、私も眠れなくて身体を動かせば寝れると思ってさ 」

「 そうなんだ…!最近、浅葱が少し強くなった気がしたから、もしかして訓練でもこっそりしてるのかと思ったよ 」



してたけどね!考え事しながら無茶苦茶振り回したけれども!それを言ったらルカも焦るだろうしお姉さんとしてはそれは言わずにおきたいんですよ。夜中の練習とか見られたくないしバレたくもないのでそのことについてはお口チャック!



「 何か気になることでもあるの? 」

「 え!? 」

「 顔に出やすいな、ルカ。年頃的にも悩みは多いだろ 」



なるべく男っぽく喋る私にルカがポカンとしているけれど、立ち話よりも座った方が話しやすいと思って隣を叩くとルカが近づいてきた。いくらなんでも子供である事には変わりなくて、年齢とすればきっと学校とかに通っている年齢。それなのにこんな場所にいる彼ら



「 僕は、 」

「 うん 」

「 ある事情で此処に居るんだけど。突然家を飛び出してきちゃって、それで… 」

「 お母さんやお父さんの事が心配?それとも、 」



私はゆっくりと優しい声色に切り替えてルカの頭を撫でる。



「 ホームシック、か? 」

「 ! 」

「 しょうがないさ。それに寂しいと思うことは恥ずかしいことでもおかしな事でもないよ 」

「 そう、かな 」



そんな事で寂しかったら世界中の恋人達は羞恥心の塊ですよ。だなんていったら空気が壊れるのでこの安心感のある夜中の空気を壊さないために私は頑張ろうと思います。どうしてこんなに空気破壊しようとするんだろう私。



「 浅葱も、そういうことある? 」

「 え? 」

「 あ、浅葱は記憶喪失だったよね、無神経な事聞いてごめん 」



き お く そ う し つ

ぽつん。と残されたような言葉。そういう設定になっている私。知らないうちに。記憶喪失というレッテルを貼られてしまった自分自身。そういう風に過ごさなくちゃいけないんだろうかって言う不安が胸に突き刺さる。苦しい



「 浅葱? 」

「 …あはは、ちょっとだけ思い出せないかって頑張ってみたけど、頭痛くなっちゃった 」

「 無理しない方が… 」

「 ルカ、もう寝な。私も寝るから 」

「 うん、おやすみ 」



立ち上がってホールへと入っていったルカの背を見守ってから私は下唇を噛んだ。ごめんねっていうのは私のほうでルカがいう言葉じゃなかったのに。嘘ついて平気な振りして皆の中に混ざっているのは、私なんだって言えないから



「 くるしい 」



嘘吐きってあとで言われてしまうんだろうか。でも、人間本来は嘘吐きなんだからそんな事いわれたって大丈夫何も怖くない。って自分に言い聞かせるほど、なんだか



( 誰にも相談せず )
( 誰にも本当を言わず )
( ただ、そこに存在する私 )

10/0820.




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