桃色の髪が俯いているのが見えて、走り続ける船の上で私とエールが彼女の隣に座るとゆっくりとその青白い顔が見えるようにあげられて、エールがすぐに顔をしかめそうになるのをこらえた。私は、カノンノの頭を撫でながら自分の方に引き寄せて膝の上に頭を落とさせる。自然な動作でここまでたどり着けたのはカノンノが抵抗しなかったからです!このこったら本当にいい子!
「 …浅葱? 」
「 顔色悪いから、少し目を瞑ったら? 」
「 …でも、 」
「 大丈夫。話はちゃんと聞くよ 」
だから、目を瞑っていいんだよ。何も怖くないし、独りぼっちじゃないから。それに今は貴女の隣にエールもいるし微力ながら私もここにいる。だから、
「 安心して、一度ゆっくり深呼吸をしてみよう 」
「 う、ん 」
小さな口が開いて空気を吸い込む。私はそれを見るだけで特にこれと言ったことはないけれど、呼吸のタイミングに合わせるようにゆっくりと頭を撫でてあげると嬉しそうに、くすぐったようにカノンノが笑った。頭撫でられるのはエールと同じ以上に好きだからなあ、この子は。本当に、可愛いというか、まあ、気持ちはわからないでもないんですがね
「 何か、聞こえたんだね 」
「 いつもの、声が聞こえたの 」
「 海から聞こえるって言ってたやつ? 」
「 うん。最近は強く、強く頭に響いてきて 」
ニアタの、声。
「 恐いんだけど、それでも私にいろんな事を教えてくれた声だから 」
「 カノンノ…、 」
「 覚悟しなきゃって、会わなきゃって、思うのに 」
ふ、と上がったカノンノの手が彼女自身の目頭を覆うように乗せられた。合間から落ちていく透明な液体にエールは私を見てから、どうしていいのかわからずにワタワタと首を動かして、カノンノ以上に泣きそうな顔をしている。いや、落ち着いてくれエール!
「 近づいているってわかるたびに、恐いの 」
「 うん 」
「 恐くて、それでも、私のお父さんやお母さんだったらって思ったら、どうしたらいいのかわかんなくて 」
「 相談、できなかったんだね? 」
「 誰かに、言いたくてもみんな聞こえないから、わからないのも当たり前なんだと思う。でも、そのみんなはどんどん、変わっていくから 」
たった一人、取り残されたみたいで、
「 私も、変らないと、いけない、って、思、うのに 」
「 カノンノ、大丈夫だよ、わたしがいるよ。一人じゃないんだよ 」
「 エール、 」
寂しかったんだと思う。誰が何を言っても、自分が見つけないといけない大切な感情、変わる先。未来の自分なんて想像できないって私も昔思っていた。先生にそれを言った時、あの人笑ってたな。自分もそうだったって。将来なんてそう簡単に決まらないし、自分のことだと余計にわからないって私にそう言った。
「 カノンノ 」
「 浅葱、私、 」
「 変わるなんて、実際は簡単なんだよ 」
「 でも、私は、全然変われない! 」
「 それはまだ、変わる時間じゃないから 」
ゆっくりと頭を撫でたまま、言い聞かせるように。子供をあやすような声で私は言った。『まだ』と。自分以外の人間から見たら別に変わるって変化があるわけじゃない。見た目が変わるわけじゃないし、実際心の問題だ
「 変わらなきゃ、周りについていけないだとか、周りが変わっていくから、なんて自分からの理論で実際周りも同じ気持ちだよ 」
「 …え 」
「 周りだって知らないうちに変わっているのかもしれないし、目に見える変化なんてなにもないんだから 」
「 浅葱お姉ちゃん、それって 」
「 変わるって言うのは心の切り替えのタイミングみたいなもの。過去を切り捨てるようなものなんだよ 」
新しい自分とか、新しい希望をつかむための大事な一歩を踏み出す事を恐れないで。大丈夫だから、君の傍にはいつでもエールがいるし、私も出来る限りのサポートもしてあげるつもりだから。君の夢も、君の海に出たかった理由も全部、受け止められるように心の隙間広げておくからね
「 もし、そのニアタ・モナドというやつがカノンノのきっかけになるとしたら、頼りにならないかもしれないけれどエールは一緒に行ってくれるよ 」
「 頼りになるよ!わたし、頑張るもん 」
「 私も、カノンノが望むなら、カノンノが助かる姿を見るし、恐いなら手を差し出してあげる。だって、 」
私は君のお姉さんでもあるんだからね。
お姉ちゃんになるって君にも言ったから、私がここにいる間は
「 カノンノのお姉ちゃんだもの 」
みんなのお姉ちゃんだから、ね( わ、わたしのお姉ちゃんでもあるんだからね!? )
( 何焦ってるんだよ…、大丈夫だって愛情はすでに偏ってるし )
( …浅葱ってば、どれだけ弟と妹を増やせば気が済むんだろうね )
( カノンノとは、約束したでしょ?忘れた? )
( ううん、覚えてる。私の、お姉ちゃん )
11/0226.
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