「 ただいまー 」
「 おかえりなさい。それに船の改修が終わったみたいですよ 」
「 え、本当?それじゃあ、またどこか新しい場所に行くんだね 」
コングマンをボコボコにして帰ってきた私は、賞金をホールに置くと妙に重たい音がした。この賞金で食糧庫に黒いあの艶光したものを倒すものを作るなり何なりしてくれても構わないし、ネズミさんの侵入も心なしか怖いものだ。なにか準備するものがあるならこれを使ってくれて構わないんだけど。チャットにでも献上しようかなあ。それにしてもミントのおかえりなさい。は幸せになれるものがあるな、クレスうらやましい
「 貴女が拾ってきた石版のようなものの正体を見に行くのよ 」
「 あ、リフィル 」
「 本当に、変なものを拾ってきたりする事に特化しているのね 」
「 え?いや、それほどでもないんだけど 」
「 …まあ、今回は褒めたという事でいいわ 」
普通に最近、みんなの突っ込みのキレがなくなってきた気がします。どうしたんだろうか。負というのは人から笑顔を奪っていくのか?突っ込みのキレと一緒に…
「 もう移動を始めているのだけど、またお願いがあるのよ 」
「 うん? 」
「 カノンノの、表情がずっと青ざめていて、私には上手く声をかける事が出来ないというか、海を見てしまう、と…別に、怖いわけではありませんからね!その海って言うものは、 」
「 事情は把握した 」
やっぱり、海が怖いんですね。ずっとバンエルティア号のってて、クロエでさえも震え上がっていたというのに、この海というか足の着かない場所にあることに関して一番恐怖に感じそうな人がそれを思わないってことは何かあるとは思っていたが…船の中は遺跡みたいなものだし、やっぱり遺跡マニアとしての発想が勝ったのか?
「 貴女は、知らないかもしれないけれど 」
「 うん? 」
「 あの子は、貴女が見つけた石版を、読んだの 」
あのワカメが巻かれていた石版の事。肉厚ワカメだったから味噌汁にしたら物凄く美味しかったかもしれない。今さらの後悔がこれとは…!後悔しないで生きるって決めたのに!肉厚ワカメ、今からもぐったら取れるんだろうか。それともあの浜辺に生息するという食用ワカメだとしたら、あの辺に住んでいる人が羨ましい…
「 『我は、ニアタ・モナド。ディセンダーの玉座なり』って、 」
「 『ニアタ・モナド』? 」
「 ええ、あの子は確かにそういったわ。だけど、ディセンダーの玉座ってどういう… 」
「 リフィル先生 」
「 あら、エール 」
若干怖い顔というか、微妙に怒っている顔をしながらエールがリフィルに近づく。リフィルは微妙に困惑した表情でそれを見ていたけれど、私はそれに何ともいえなくてそのまま立ち位置を変えずにそのむすっとしているというか眉間に皺を寄せたエールを見る
「 カノンノだって、どうしていいのかわかんないんだよ 」
「 …そうね 」
「 今、カノンノは辛いのに、そうやって騒ぎ立てたらだめ 」
「 …エール、 」
「 お姉ちゃん、カノンノは 」
少し俯いて、私の手を握る
「 カノンノ、だもんね。なにも、変わんないよね 」
「 うん。変わらない 」
「 カノンノは、カノンノで、それ以外のなんでもない、 」
「 エールがそう思うのならそれは、エールにとっての正しい考えだよ 」
私は結局君がカノンノになんていったのか聞けなかった。その答えを聞いた時、私は自分に言われているような気がしてその言葉を鵜呑みにしてしまうと思うから。今でも聞けなくて、聞かない。君の言葉は、私にとって魔法みたいなものだから
「 信じてるもん。カノンノはカノンノだって、わたし、わかるんだよ 」
「 うん 」
「 カノンノはわたしの言った言葉に、笑ってくれた 」
握られた手を、私はそっと握り返すとエールは泣きそうな声で、唇を震わせたまま俯いている。その姿に私は、
「 エールにとって、カノンノは大事だから 」
「 だい、じ? 」
「 大切なお友達で、仲間だもの。大事な、守らなきゃいけないと思っているんだね 」
「 まも、る 」
少し暗い表情になったリフィルに、私は口パクと目線で科学部屋へと促す。あそこに言っていれば何かこの子に言われてもあのジェイドがフォローか丸め込んでくれるだろう。この子も真っ直ぐすぎて人を困らせる発言もそれなりに増えているから、しょうがないとはおもうけれども
「 そう、守る。リフィルだって、皆を守る為に備えて色んな考えをしていなきゃいけないの。今のはカノンノを責めている訳じゃなかったんだよ 」
「 違った、の? 」
「 うん。リフィルはね、カノンノの心配をしていて、その言葉の場所にカノンノが傷つく理由があったらどうしようって。その場所について話そうとしていたんだ 」
本当は、わからないけれど。君は皆が傷つくのを、皆が誰かを傷つけようとするのを一番嫌がる子だから。私がその真実をあやふやにして、あげるね
「 エールの嫌がることは、なにもなかったよ 」
私から君へ、嘘の魔法を掛けてあげる。
限りなく魔法に近い偽物だけど、君が誰かのために傷つく姿は私も見たくはないから。必要なら何度でも嘘でごまかして、あやふやにして失くしてしまおう
君のために出来る事を( 私は嘘をつくこと )
( 教える事、暖かい気持ちになる事 )
( そして、君の心を守る犠牲になる事 )
11/0226.
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