船の改修が始まって2日目。やっと皆に食堂以外の場所を与えられて荷物運びをしようと思ったら目の前に水色の髪を揺らした色黒王子がいて思わず一歩後ろに下がってしまった。駄目だ、なんか防衛本能がうずいている。うずくというか、なんかもう駄目かもしれない。この人の優しい声とか突き刺さるようで痛いから苦手なんだ。得意分野になれないぞ、どうしよう



「 おや、浅葱くんか 」

「 お、おはようございます 」

「 敬語にならなくともいいんだが、 」

「 お先に失礼させていただきます 」

「 そんなに急ぐものではないだろう? 」



気持ちだけが急ぎたいんです。思わず敬語になってしまうほど、一歩下がってしまいたくなるほど彼が苦手らしい。スタンは彼にニコニコとして話しかけていたり、ウッドロウがギルド移動するからとかいってついてきちゃうくらい懐いているとしてもどうも、私は彼が本当に苦手なようだ。丁寧な言葉遣いと柔らかな物腰。おかしいな、エステルとかは平気なんだけど



「 昨日お仕事をあまりしていないので、今日はしておきたいんです 」

「 だからと言って、そこまで急くものではないと思うんだが、君は生き急ぐようだね 」

「 短い人生ですから 」

「 その短い人生でもこういう瞬間は大切だと思わないかい? 」



ジェイドだって言葉の上では嫌ってるような感じだけど、暴言の吐き合いが彼とのコミュニケーションみたいなものだからいいんだけど。どうもこの悪意の無い感じというかエステルみたいに天然でもない、チャットみたいに子供っぽい嫌味もあまり感じられない丁寧さというか妙な性格の白さ加減が苦手なんだろうか。そのうちチキン肌が再来しそうだ



「 大切だとは思いますが、あまりに些細過ぎて目に入れたくありません 」

「 嫌でも入るようになればいいのかな? 」

「 そんな事になれば自害します 」

「 これは手厳しい 」

「 そりゃどうも 」



わかった。この人あまりにも強引で苦手なんだ。原因がわかった以上さっさと仕事をする振りしてこの人から離れなくちゃ心が疲れてしまう。一国の王子ともなれば会話術もジェイドと同じくらいの消費かそれ以上になるかもしれない。



「 よろしければ、私がそのダンボールを運ぼうか?重いだろう? 」

「 フライパンの方が軽いですから 」

「 そんな細腕で、無理はしないほうがいい 」

「 細腕というのならリアラの方が細いですよ 」

「 私は君の手伝いがしたいのだよ 」

「 だったら、邪魔しないでください 」



さっさと運ばせてくれ。お願いだからその足のコンパスの長さでアッサリと追いつかないで欲しい。そして、力仕事だけじゃなく頭を使う会話までさせるなんて酷い王子だとは思うがもうこいつギルドに送り返してやればいいんじゃないだろうか。苦手意識しか生まれてこないんですが!



「 そうか、そんなにダンボールが邪魔だったとは 」

「 違います 」

「 ああ、私の方の箱の事か。気付かなかったよ 」

「 勝手な勘違いして私に触れようなどと浅はかな考えはやめていただけないでしょうか 」

「 浅はかではないだろう 」

「 知恵の浅さがわかるような手口でこっちにこないでください 」



この男、強い…!
精神面なのか言葉なのかもうよく分からないけれど、これは危険だ。だからといって改修中の船の中を走れば確実にどこかから『ミスティックケージ』が狙いを定めてくることも後で『フォトン』の餌食になるのも予想はつくので出来ないし、



「 どうしたら君の警戒を解けるのか、今度教えてもらえないかい 」

「 安心してください、一生ありえませんから 」

「 別に照れなくともいいのだよ 」

「 誰が誰に、でしょうか 」

「 君が私に、だ 」



今すぐ甲板に出て、この男を突き落としてしまいたい。
くそう、飛んだ勘違い男だ。というか、なんでこんなあからさまな好意をむけられているんだろうか。遠くでミントが頬を紅くしてこっちを見ているけれどそんなにいいものじゃないよ!なんか心がえぐられていく感じしかしないんだよ!つらい!



「 下手な勘違いは身を滅ぼすと思いますけど? 」

「 最近流行のツンデレとかいうやつかい?君は本当に可愛いね 」

「 ツンデレはリオンですから。私にデレを求める時点で間違えていますよ、選択肢を誤りましたね 」

「 ははは、君がディセンダーだったら連れ出してしまうくらいだな 」

「 怪しい人と変態にはついて行くなと教わりましたから 」

「 私とは違う部類の人の事かい?大丈夫だよ、私はそれとは違う 」



もう一緒でいいだろ。同意味語として十分活用できそうな感じがしてきた。誰か近くにいれば、逃げる事は可能なのになんでこうも近くに頼れる21歳チームとかがいないんだろうか。今すぐに助けを求めるどころか、ゼロスでも何でもいいから助けて欲しい。贅沢を言えばスタンとカイル以外で。



「 ウッドロウさーん 」

「 すまないが、スタンくんが呼んでいるので行くよ 」

「 もう一生会えないといいですね 」

「 会いに行くよ 」



もう来なくて大丈夫。今ので一生分くらい話した気がします。それにしてもタイミング悪く誰も来ないと思ったら廊下というか通路の方ががやがやしている気がする。もしやそこに皆が隠れていたとしたら今すぐクラトスに泣きつこう。むしろクラトスがそこに一緒に隠れていたとしたらもう家出するしかないかもしれない。それか闘技場で暴れてストレス解消しかない



「 あ、浅葱、ど、どうしたんです? 」

「 エステルなんでさっき抑えやがった! 」

「 いえ、ですから通行止めだったんです 」

「 浅葱ちゃん、なんかさっきそこで荷物崩れたんだって聞いたんだけど、怪我してなーい?大丈夫? 」

「 浅葱、なにかあったのよね?どうしたの? 」



案の定ざわざわでてきやがって。ここで泣いてしまおうか。いやでも、無意味に泣くのは嫌だしこの間泣き顔見られそうになって必死に抵抗したって言うのにここで泣いてしまうのも努力が無駄になってしまう



「 …これ運んだら闘技場行ってきます 」

「 え?浅葱? 」

「 ごめん、これ以上話かけられると。本当に笑顔が引きつるから 」



とりあいず、この箱を置いてきたら闘技場にいってコングマンでもボコボコにしてこよう。最近刀の扱いも、少し上達したような気もするしもしかしたらいけるかもしれない。ストレスのはけ口になってもらおう、コングマンには



( あからさまな好意ほど面倒なものはないんだよおおおおおお!! )
( ま、まさか、俺様のフィリアさんへの恋を、お前、 )
( 振られてしまえ、コングマン! )
( …ぐ、貴様 )
( くらえええええええ!! )
( させるかああ!! )

11/0225.




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