「 ふまんです! 」

「 そっか 」

「 お、おねえちゃん、ひどいよ… 」

「 いや、急にそういわれても 」



なんと対処していいのやらって感じで何とも言えないんだけどなんていって欲しいんだ。私はリフィルからあいうえお順に並べてもらった紙を広げて書き写しの最中なんだけれども、ちょっと手元が忙しすぎてあんまりそっちを見ていてあげられないというか。さっきエールもリフィルからもらったプリントやってなかったっけ?



「 それで? 」

「 え? 」

「 何が不満なの? 」

「 う、うん 」



目の前でペンを構えたまま戸惑うエールに私は首をかしげる。まだた行の始めだけど後でかっ飛ばして書けば間に合うだろう。書かないと覚えないのは私なんだけれどもこの子をほおっておくわけにも行かないし、なんだか不満があるらしいからな。



「 わたし、おねえちゃんのために何もしてあげられないもん 」

「 もう存在してくれているだけで十分です 」



癒しというか癒し効果的な問題で。
汚れた空気もエール一人がそこにいるだけでマイナスイオンになる。マイナスイオンって結局は人には感知できないとか何とかあった気がするけれどまあいいや。



「 やだ! 」

「 ええ… 」

「 わたしだってできるもん! 」

「 なにを? 」

「 なんか、おねえちゃんのためになる、こと 」



泣きそうな声で、私へ必死に言葉を紡ぐエールの声。くそう、可愛いな!やっぱりそこにいるだけで爆発的な威力を発揮してくれてお姉ちゃんは嬉しいというかなんかドキドキするよね。じゃなかった。早くフォローとか入れないと本格的に泣き出したらお父さん達に白い目で見られてしまう!それだけは、それだけは阻止せねば!



「 今そこに居てくれるだけで十分だよ 」

「 …でも 」

「 エールが傍にいてくれることは私にとって嬉しい事だから 」

「 お、おねえちゃん、 」



恥ずかしいことを言った気がするのは私の気のせいだろうか



「 わたしもお姉ちゃんの傍にいられるの、とっても嬉しいよ 」

「 …きゅんとした 」

「 おねえちゃん? 」

「 う、ううん。なんでもないよ 」



なんでもなかったことにしてください。じゃないともうこのペン握るんじゃなくてお姉ちゃんは大好きな妹を抱きしめる事になりますから。まったく、可愛いって犯罪だな。けしからん。



「 あ、そういえばね 」

「 うん? 」

「 お姉ちゃんのお名前を、グラニデの文字で書くと 」

「 書くと? 」



さらさらとペンを動かし始めるエールの手元に出てきた文字。この世界の文字は今でも区別がつかないけれど、私の名前を書いてくれてるらしいのできっとそうなんだろう。その文字の数もそうだし、リフィルに貰ったあいうえお表と比べてみても同じ文字が書かれていて



「 こんなにも、綺麗なんだよ 」

「 え? 」

「 お姉ちゃんの『浅葱』って字を並べたときに、綺麗だって思ったの 」

「 …そう、かな 」

「 うん、とっても綺麗 」



カノンノに初めてあった時も、そんな事を言われたはずだ。もう本人は覚えていなくとも私にとって大切な思い出を、君はその上からまたキラキラをかけてくれる。



「 その紙、貰ってもいい? 」

「 うん。あ、まって!ならもっと上手に書くから! 」

「 エール、私はそれがいいな 」

「 え? 」

「 その紙がいい 」



瞬きをしたあと、エールが私に向かって差し出すその紙は真っ白で、黒い文字だけが浮かんでいた。まさかリフィルのくれた紙じゃないだろうと裏を見ると真っ白で少しだけほっとして、紙をテーブルの上においてそっとなぞる



「 ありがとう、エール 」

「 う、うん 」

「 すごくうれしい 」



偽れなかった名前を褒めてくれた事が、



( 思い出が増えるたびに )
( 嬉しすぎて )
( 笑顔が癖になりそうで )

11/0224.




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