「 ビクターさん、帰るって言ってくれてホントよかったね 」

「 うん。人ってたった一つの希望であんなに変わるんだね… 」



帰るっていってくれて私も嬉しかったけどさ。帰る途中が辛いというか、視線が痛かった。家の前まで送っていった挙句に彼に手を握られてさわやか笑顔の餌食にされてしまった私としてはなんだかもう精神面が病んできそうです。ずっと手を離してくれなかったんだもの!私は、彼になにか言ったのか!いったかもしれない。いや、その程度で彼の心は揺らがないだろう。



「 すごいなぁ 」



カノンノの呟きを聞きながら私は手を擦る。流石に力的な問題で勝てなくて何度も引き抜こうとしたせいかちょっとヒリヒリするんだよね。皆はあっさり握手だったのに何で私だけコッテリなんだ。ガッチリコッテリ。胃に重そうだ



「 変わろうと思った瞬間から、今まで暗かった世界がぱっと明るくなったみたいだったね。私も、変われるかなぁ 」

「 うん、だいじょぶ。カノンノが言うように、変わろうと思うことは大事なんだろうなって思うもの 」



変わる、か。ビクターくんもあれで結局帰って速攻で親に言ったのかな。敷かれたレールなんかに興味がありませんって。上手く伝わって、彼が細工の会社とか立ち上げちゃったら彼の両親もビックリだろう。そうしたら見返した気持ちになるのかな



「 私も、そういう時期があったの。自分を押さえ込んで… 」



気持ちがわかる人は、似たような思いがある



「 でも、ロイドやジーニアスやみんながそんなことしなくてもいいって教えてくれたの 」



仲間がいる人は、気持ちを吐き出した時に理解してもらえる。どんな形であろうと言葉は変わる事に必要条件なんだろうか。言わなきゃ伝わらないと、誰しも使う言葉だけど実際に言ってくれなきゃ何もわからないから、言いたい事はわかるけれど



「 だから、ありのままで生きることにしたの 」



そうすると、言葉を使わないから伝わらないのか。それでも言葉を知らないから伝わらないのか。これも微妙なところだなあ。多分クラトスに言ったら苦笑されそうだし、鬼畜眼鏡に言えば鼻で笑われる事は間違いない。ふ、って。



「 そしたらね、本当に世界が変わったんだよ 」



ディセンダーになりたいって言ったエールの世界は変わったのかなあ。本人にしかわからないからといって何でも深入りするのは良くないのかもしれない。ズケズケ人の範囲に踏み入るのは勇気もいるし、なにより嫌がる人だって沢山居るんだから



「 何もかもがキラキラ見えて。見るもの全部が新鮮で、嬉しかったなぁ 」

「 変わろうと思った瞬間から、かぁ 」



ふと、エールの方を見ると花びらがついたまま二人の会話を聞いていた。そっとその花びらに手を伸ばすとホールに入った風でふわっと一枚だけ飛んでいく



「 私も変わりたい…。でも、どう変わっていけばいいのか、まだよくわかんなくて 」

「 だいじょぶだよ。焦ったら、変わるきっかけ見失っちゃうよ 」



ふわり、と飛んでゆらめくピンク色に手を伸ばせば避けられて



「 そう…、そうだね 」



会話を聞きながら。
あの獄門洞に入ったばかりのときと同じように両手を伸ばして落ちてくるのを待つ



「 さ、早く機関室へ報告しに行こう 」

「 うん 」



コレットの声に頷くカノンノの声を聞きながら、あと少しで私の手の中に落ちる花びらを両の手で包んだ。桜の花びらをそっと胸に押し当てて目を瞑ると、あの桜の風景が浮かぶ。報告よりも先に、またあの場所へ行きたくなるようなこの感覚。



( おねえちゃん? )
( え!あ、な、なに? )
( 機関室行かないの? )
( 行くよ。ごめんね、ぼーっとしてた )

11/0222.




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