少しだけ負に干渉していると、聞き覚えのある何かが倒れる音と金属音がして顔を上げた。床には穴は開いていないようだけれどもコレットがこけてしまったらしい。相変わらずというか、なんというか。ビクターくんが下敷きなら無くてよかった気がする。あの破壊力は人の家の壁に穴を簡単に開けるからな。木造建築だと結構瀕死になると思う
「 あれ、どうしよ…、壊れちゃった。ロイドにもらったアクセサリー 」
手の内で壊れたアクセサリーを見つめるコレット。ロイドはそんな簡単に壊れるようなものを作っちゃ駄目だと思う。今度はもっと頑丈なものを作るように言っておかないと。オリハルコンでも採ってくればいいのかもしれない。何処でとれたっけな
「 貸してごらん 」
コレットの手の中にあるアクセサリーに手を伸ばしたビクターくんは、すぐに工具を出して修理を開始する。手際がいいというか、うちのギルドの器用なロイドくんしか思い出せない。音機関はガイが一番上手いと思う。力仕事はユーリと思われます
「 大丈夫。すぐ直るよ、待っててごらん 」
「 その工具、いつも持ち歩いてるの? 」
「 ああ、僕は本当はこういう細工の仕事がしたくてさ 」
夢を持っていた彼の、楽しみ。
「 でも親は金融業を継がせたいからって認めてくれないけどね 」
好きなものを否定された苦しみ。それはどんな人にだって訪れる苦しみで、悲しい事。好きなものを触れない人もいるし、そんな些細な事でもすぐに負に変わって溜まっていってしまう。恋もストレスになる人もいるからね。きっとこの世界中で色んな人が負を抱えて生きようとしている
「 …出来た。これで元通り…かな 」
そっとコレットの手の中に返して、工具をしまう。コレットはその青い目を輝かせて、修理の終わったアクセサリーを見て笑みを浮かべた。花のような笑みというか、アドリビトム内にいる女の子って笑った時に犯罪級に可愛い人が多いから、正直反則だと思う
「 わぁ、ありがと。よかった、ホントよかったぁ… 」
大好きな人がくれたものが直って喜ぶコレットにビクターくんの口元が緩む。優しい眼差しは、だんだん光を帯びてきて
「 よく考えてみれば、他人の為にこういう事をしたのは初めてだ 」
喜びを覚えたばかりの子供のように輝く。
眩しいばかりの笑みを浮かべたビクターくんの表情は始めに比べると大分明るくなってきた。この手を引っ叩く事に使わなくてすむことになって、安心したというか行き場がないこの手をどうしよう
「 僕は願ってばかりで、何も始めていないのに勝手に絶望していたのかもしれない 」
一歩踏み出そうとしている人間をみて、エールの表情の曇りが晴れてくる。ただマナを使ったせいか心なしか顔が青いかも知れない。毎日見てれば気付ける変化だけど、流石に帰りはビクターくんを囲むようにしてエールは休ませた方がいいかな。誰に似たのかわからないけれど無理無茶は得意範囲みたいだから
「 僕は君の喜んだ顔を見て、本当にこの仕事がしたいと思った。そして覚悟を決めたよ 」
自信に満ちた表情で彼は笑う。
新しい世界へ踏み出すような明るい目をして
「 それじゃ… 」
「 うん、帰るよ。僕は、僕の仕事でいろんな人の喜ぶ顔がみたい。親が何を言っても関係ないさ 」
「 じゃあ、このままビクターさんを送って戻ろう 」
エールがこぼれんばかりの笑みを浮かべてビクターくんをみていた。どんなことを思ったのかわからないけれど、嬉しそうに笑っている。心のそこから、新しいものを見つけたような笑みを浮かべて
「 好きなものを頑張ってくださいね、ビクターくん。壁なんて壊すか乗り越えればいいんですから 」
「 は、はい 」
「 好きなものを頑張れる男性は、素敵ですしね 」
フォローだけしてから、腰にある刀の柄を握る。また、ここから先のゾンビとかウルフゾーンを越えていかなくちゃならないと思うだけでなんだか憂鬱だ。それでもまあ、夢を持ったばかりの人を傷つけさせる訳にはいかないので、
気合を入れて護りますよ( なんか背中からの視線が痛い気がする )
( 私何かいったかなあと思って振り向くと )
( ビクターくんとエールと目が合った )
( 記憶にあるとすれば…やっぱり、オーバーリミッツかなあ? )
11/0222.
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