「 …な…… 」



カノンノがやっと吐き出した言葉は震えていた。多分頭の中は混乱してしまっているんだろうけれども流石に何か言い出すにも言い出せないんだろう。そうさせた原因、目の前にいる大きな合成獣は身体の周りに発光色のピンクを走らせて、赤い瞳で私たちを見下ろしていた。体中に傷を負った、大きな大きなナニカの目は、ギロリと動く



「 これは…、どうしてこんな…!? 」

「 ど、どうすればいいの? 」

「 カノンノは一旦下がれ! 」

「 え、浅葱? 」

「 いいから、下がれ! 」



正直に言えば、私もどうするのかわかってはいるけれど混乱しそうだ。負と戦うという事に戸惑ってしまっているのかもしれない。でも、この負を変えてあげたらゲーデの痛みが軽くなるとしたら。そう考えるだけでこの刀の柄を握れるような気がして、そっと手を添えるとハロルドが取り付けてくれたレンズがぼんやりと光る



「 お姉ちゃん、どうしよう…! 」

「 このままには出来ないから、ちょっと痛い目を見てもらいます 」



ちょっとだけ。傷を受けるというのはあの子も少なからず傷つくのかもしれない。でも、きっとあのこはまた渇いて渇いて仕方が無いと思うから。



「 じゃあ、とりあいず、ビクターさんをこっちで抑えよう 」

「 うん、動きを封じるんだね! 」



絶対に、暴走だけはさせない。
そんな事になったら彼の両親が傷ついてまた負を生み出して彼の渇きになってしまうのも簡単に考えがたどりついてしまうから。渇きなんてなくしてしまえばいい。渇きになるものを取り除ける可能性があるのなら私は、負を傷つけよう



「 カノンノは、なるべく回復に回って欲しい。っていうか全員回避重視で! 」

「 え、お姉ちゃんは…? 」

「 前線切り開くのは私の役目だよ 」

「 浅葱、それじゃ、浅葱が傷つ 」

「 きたくない! 」



体勢を低くして鞘ごと引き抜く。腰の重みが消えてフライパンより少し重い負担が腕にかかる。大丈夫いつもの感覚のはずだ。ちゃんと皆の依頼について行ってたはずだから足はひっぱらないとは思うけれど、心の余裕を考えると回復が出来るメンバーは後ろで支援してくれててたほうが安心できる。コレットは回避だけ上手くしてくれれば平気だ。なるべく私が君達を守るから



「 傷つけるような真似をして、ごめんね 」



ヘビモスにそう呟くと、大きな口が雄たけびを上げた。空気が振動して頬が震えるけれど、まだ大丈夫。暴走の一歩手前のはずだ。ビクターくんは魔物になんてならないし、させないからね



「 エンジェルフェザー! 」

「 コレット、次回避! 」

「 うん! 」

「 エール、詠唱は中断し、て 」



頭部を向けて突進の準備から駆け出す音。
エールがその音に目を開けて、唇をうっすらとひらいてゆく。近づく足音、カノンノがあの子の名前を呼んで、コレットが羽を動かそうとしたのをみていたのに。私の足だけはしっかり動いていて



「 エール…!避けて!! 」

「 ど、どうしよ、どうしたら、 」



本当にあの子は危機に陥るのが上手というか、敵の狙いが上手いと褒めるべきか。
どちらにしろ



「 いい加減に、しろよ 」



負の塊の前で、私はそっと刀のレンズに触れる。
ほんの一瞬だけ、自分から黄色い帯が放たれるのが見えた気がした。その帯びの奥にある赤い瞳に焼き付いてしまえ。私の誓いを、約束を



( 容赦はしない )
( あの子を傷つけるものは、許さない )
( 私の大切を傷つけるやつは、絶対に )

11/0222.




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