黒い霧を纏った青年が膝や手を地面につけて見事な土下座ポーズを決めていた。字体にするならば『orz』がシックリとくるその体勢に私は対抗心が燃えそうになり、一瞬だけほふく前進で近づいてみようかと思うけれどそんなことしたら確実にこの3人の信頼度を失うどころか、船の皆に知られたら確実にパパ組から縁を切られるに違いない。恐くてできません。



「 ねえ、あそこ。ビクターさんかなあ? 」



コレットがビクターくんを発見して首をかしげた。18歳にて家出癖のあるビクターくんを見ながらカノンノはあの霧を見ながら不思議そうに、怪しいものをみるような目に変わる。確かにあの霧をみるとそう思うかもしれないけれど、あれは負だと思うとその目にならなくなるんだよね、だって負はゲーデだもの



「 わからないけれど、声をかけてみましょう。ここは、危ない場所だし… 」

「 カノンノ 」



駆け出そうとしたカノンノに声をかけるとその小さな背中が振り返った。



「 なに? 」

「 危ない場所だからこそ、驚かせるような足音は感心しないよ 」



もしものことを考えて。近づいた瞬間にヘビモスになられたらたまったもんじゃない。一人で駆け出して怪我なんてされたらエールとコレットが大泣きになるだろうし、船に帰ったときのパニールの反応を考えるだけで心が痛む。するとカノンノが頷いてから、ゆっくりとした足取りでビクターくんらしき青年の前で目線を合わせるようにしゃがみ込んだ



「 ビクターさんですか?私達は、アドリビトムというギルドの者です 」



ビクターくんから、小さなうめき声が聞こえてくる



「 ここは危険な場所ですから、私達と外へ出ましょう 」



黒い霧が彼の身体からどんどん広がっていく。カノンノはそれをみながらビクターくんに話しかけ続けると彼は、またうめく。何かもがいているような苦しそうな声が、ゲーデと重なって見える



「 あの、大丈夫ですか。気分が悪いとか… 」

「 うるさい… 」



今度は小さくてもはっきりと聞き取れる痛みの声。抵抗。
薄い黒がどんどん濃くなっていく。負の思いが人にしっかりと見えるほどに変わっていくその瞬間に、また、あの子は一人で苦しんでいないんだろうか。独りで、独りぼっちで、泣いてないかな



「 あの… 」



カノンノの戸惑うような声。
そっと伸ばしたその小さな指先を、



「 うるさいぃぃぃ…放っておいてくれよぉぉぉ!! 」



振り払うような、大声に弾かれたようにカノンノが身を引く。黒い霧を、今まで積もっていた感情を爆発させたように彼の身体を包みながら噴出していくのをみて、エールがすぐに武器に手を沿えて、カノンノが瞬きをせずにぼんやりとその姿を見ていた



( 姿を変えてしまうほどに黒は深い )
( 合成獣のようなその姿に )
( 私は息を飲んで )
( 未だに知ることのない闇の深さを見るだけ )

11/0222.




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