私としてはあのエールのことを頼み込むシーンはよかったと思うんだ。いや、もうあそこで引き止められなければ今こんな風になってなかったと思う。まあ引き止めた本人は泣き疲れてぐっすりですけどね。ところで、どうしてだろう。どうしてなのかな。今まで色んなところで正座をしてきたけれど、こんなにも居心地が悪いのって機関室よりもホールって、どういうことなんだ。人の通りが多いからか!それとも人の視線が痛いからか!



「 何を考えているんですか。まったく、貴女という人は無茶苦茶なことばかりして我々は必死にこの船の中のあなたを捜し出すはめになったんですよ? 」

「 このたびは誠に申し訳ございませんでした。本当に。いや、嘘じゃないからね?もう本当に許してください。まだ甲板で正座でお説教のほうがマシだった! 」

「 エールがディセンダーだという話で大分こんがらがっていたというのに、何故こうも次々に問題がおこるんでしょうかねぇ 」



台詞が長ければ長いほど、ヒシヒシと肌がピリピリするほどの怒りを感じる。この鬼畜眼鏡は私の『記憶喪失じゃない事』を知っていたはずなのに何でこんなにも怒られてるんだろう。そこまで悪い事をした覚えはないのに…いや、緊急用のモノを使ったからだろうか。まだ名前が出てこない。なんだっけ、あれ



「 この世界の異端者だとか、このグラニデに何の関わりもない世界からきたってどういう事なの? 」

「 そのままの意味だよ、リフィル。簡単に言えば、イレギュラーであって本当は必要のない存在。寝て起きたら知らない場所に寝転がっていたんだもの。流石にビックリしたよ 」

「 必要のない存在、って、どういうことなんです? 」

「 この世界に生きていてはいけないってこと。この世界にきてはいけなかった。そう解釈してくれると助かるな 」



じゃなければ、あんな風に体が消えたりする事はないんだろう。生きていてはいけないから、急に来てしまったから、この世界が私に圧力をかける。必要のない紙は簡単に捨ててしまうように。必要のないものはゴミとしてしまうように。



「 で、船長。どうする?私をここから追い出すもよし、まあ、場合によっては殺されても問題はないかもしれない 」

「 そんな、こと 」

「 そうだね、じゃあ自害と行こうか 」

「 だ、駄目です!浅葱さんにはまだ沢山やってもらわなくちゃいけないんですよ!! 」

「 なに、を? 」



刀の柄をつかもうとしたら皆にまた腕をつかまれて、女の子達は皆顔を歪ませているし、カイルは私の背中にしがみ付くし、マオなんて泣きながら私の腕をつかんで。本当に泣き虫だなあ。怖いけれど、死ねといわれたら迷いながら、自分を刺すのに。



「 家事だって、パニールさんとクレアさん、ナナリーさんだけじゃおいつきません。それにボクだって、まだ浅葱さんに教えて欲しい事があるのに、いなくなられたら迷惑です。だから、 」



また、そのキャプテンハットがずれるんだね。
俯いたらずれちゃうんだから、前を向いていないとかっこ悪いよ



「 だから、いなくならないで下さい。嘘をついていたってボクに優しくしてくれたのも、家事しながら、戦いに出たりして無茶苦茶な事をするのも、全部全部浅葱さんなのはかわりないじゃないですか 」

「 それに今船から出ても危ないし? 」

「 あとはあの純粋なお嬢さんが混乱した時お前がいないと困るしな 」



くすぐったくて、暖かい場所
今だけ帰れる場所



「 馬鹿は、どっちだよ、皆の、馬鹿 」



本当を知った上で気にしないとか引き止めるとか、皆馬鹿なんだ。いい人すぎて馬鹿になっちゃったんだな。そんな皆のせいで、私だってまた胸が締め付けられて苦しい。泣きつかれて寝ちゃったエールがいないところで私何やってるんだろう。なんで、こんなにも



「 瞼脹れて明日起きられなくなったら、どうしてくれるの 」

「 そうしたら朝早くからあたしが冷やしてあげるわよ。浅葱ったら世話が焼けるんだから 」

「 ルビアが勝手に世話焼いてくれるだけでしょ? 」

「 泣き笑いしてる浅葱に言われたくないわ! 」

「 だって、なんだか幸せなんだよね 」



こんなにも、嬉しいのかな。嬉し泣きをしてしまうくらい、感情がぐちゃぐちゃになるくらい苦しくて、嬉しくて心が温かい。ルビアの瞼も真っ赤になってて、鼻先も赤いまま。私もそんな顔をしているのかと思ったら少し恥ずかしくて、それでも笑ってしまう



「 幸せなのはいいですが、くれぐれもいなくならないで下さいね。探すのは面倒なので 」

「 うん 」



赤い瞳が優しく歪む。エセ笑いじゃないその笑みに私も笑みを浮かべるとまたその手が私の上に乗る



「 逃げたりしたら、今度は見張りをつけますから 」

「 え 」

「 冗談じゃないですからね 」

「 共犯がいた場合は…? 」

「 そうですねえ、場合によっては半殺しでしょうか 」



その瞬間数人の男達がピシリと固まるのが見えた。ルビアなんかは一緒に逃げてあげるから誘うのよ!なんて言ってくれるけれども、男の子達は固まったまま動かない。正しくは青年だけど、リアラは笑顔で一緒に逃げましょう。なんていってきて収集がつかなくなってきた



「 とりあいず、私、ここにいていいんだよね? 」

「 いなきゃ困るんです 」




( 彼らにとって当然で )
( 彼女達にとって当たり前で )
( 私にとって暖かい事で )

11/0221.




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