思わずクラトスがあまりにも優しくて懐が大きすぎるからついつい愚痴を言うように責めたててしまった。あとでなんとかフォロー入れないと今度から甘やかしてもらえなくなるかもしれない。最近、クラトスのところに行くのが楽しくなってきていたのに自分で自分を追い詰めてしまった気分だ。くそう、あの優しさが悪いとしたら罪の領域だな!



「 エール、ご飯だってパニールが呼んでるよ 」



丁寧に扉を叩いてみたけれど返事はない。ただすすり泣く声だけが聞こえて開かない扉に取り掛かったままもう一度名前を呼んでも反応をした様子はなくて、いっそヤクザみたく扉を乱雑に蹴ってしまおうかと思ったけれどこの扉、バンエルティア号の一部なだけあって実際にやるとリフィルが凄く怖い。鬼の形相で睨んでくるんだよ



「 …エール、 」

「 いら、ない 」

「 そんな事言わないの 」

「 いらない! 」

「 今日はハンバーグだって 」



背中の方に歩いてくる音が聞こえて、やっと出るかと思って背中を浮かせようと思ったら八つ当たりみたいな乱雑な音で扉がボコンッと音を立てた。地味に背中が痛いです、エールさん。



「 ねえ、エール。何が嫌か言ってごらん? 」

「 …ご飯行って 」

「 お姉ちゃんはさ、ご飯よりもエールとお話したい 」



コツン、と扉の向こうで音がする。多少防音が聞いてるらしく完全には聞こえないその声に耳を済ませた。まだすすり泣いている声と未だにぐずっている声が混ざっていてここから離れられない。この扉越しに伝わる声が行かないでって言ってるように思い込んでしまったのかそうなのかわからないまま、私は廊下にしゃがみ込んで天井を見る



「 …ごめんなさい 」

「 何が? 」

「 浅葱お姉ちゃんの、腕 」

「 ああ、気にしてないよ 」

「 嘘? 」

「 本当。気にしてはない 」



気にしてはない。ただ、痛かったのに嘘をついたことを謝らなくちゃいけないし、ディセンダーについての話にも触れておきたい。だって、私は君が嫌だと言うのなら、喜んでその手をとって逃げるって決めたから。決めてしまったのだから、もう曲げたくない。それも君が望んだら、の話なのに。こんなにも息苦しくて



「 でもね、お姉ちゃんはあの時嘘ついたから今からちゃんと聞いててほしいな 」

「 あ、れは 」

「 大丈夫じゃなかった。痛かったよ、ちゃんと痛かった 」

「 ご、ごめんなさ、 」

「 でも、エールのせいじゃなかった 」



この子を甘やかして、甘やかして。ちゃんと育てたつもりで居たのがいけなかった。過信していたのが私の間違いで、言葉を単純に選んでしまったのが一番悪くて。嘘吐きって言われるのも当然だった。あれは、本当に嘘だ



「 私は、知らない間にエールを追い詰めちゃってたんだね。なんでも受け入れちゃったから 」

「 そんなこと、 」

「 私が痛いと思ったのは、傷じゃなくて。そうやって一人で泣かせちゃった事なんだ。いつもいつも、エールが泣く時は私がいたのに、私は追いかけられなくて、 」



いつも私の傍に来て、泣きたいときは泣いて笑いたい時は思いっきり笑って、わからないことがあればすぐに首をかしげて。自分が傷ついた訳じゃないのに、人に影響されて傷つく君の傍にいて抱きしめてあげてたのに



「 ごめんなさい、エール 」

「 お姉ちゃんは、たまにカッコイイね 」

「 お、本当?ちょっと困っちゃうなあ 」

「 なんで嬉しそうなの! 」

「 エールになら、何言われても嬉しいし。エールの言葉を、意思を聞けるのがそれ以上にとっても嬉しいからだよ 」



本当の本当。
ほんの少しだけ嘘を混ぜて君に届ける私の愛情。



「 わたしの意志、 」

「 うん。エールの意思 」



それを尊重するよ。私は君が大好きだから。
私は君のために、その手を握る準備も受け止める準備も出来てるんだから



( 仲直りまであと少し )
( 喧嘩なんてしてないけれど )
( 私と君の溝を生めるための質問を、胸にとどめたまま )

11/0219.




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