「 お目覚めのようですね 」



あ、子供船長おはよう。だなんて軽く挨拶しそうになった口を閉じた。よく我慢した私。相変わらずぶかぶかの帽子をかぶって扉が開いた直後に入ってきたこの船の船長チャットにそんな口を聞いたらなんだか追い出されてしまいそうなので地味に株上げを謀ってます。まあ今のところは大丈夫、衣住食に困らないければ私生きていけるので。いや、誰でも生きていけるのか。



「 ようこそ、バンエルティア号へ。ボクはチャット。この船の船長です 」



ヤジをかますべきか悩みつつ、胸を張ってるチャットに生暖かい視線を送ってみたら案の定反応してむすってしてた。可愛い。この子供ばっかりの船に乗っていると自分がどんどん甘くなっていくよ!どうしようかなあ本当に!



「 まあ、くつろいでください。我々は海賊ですが、なに、漂着者から奪ったりなどいたしません 」

「 え、海賊だったっけ?ギルドって聞いてたんだけど 」

「 子分を増やすための口実です!浅葱さんはもう僕の子分なんですからね! 」

「 えー、知らなかったわー… 」

「 返事は? 」

「 あいあいさー 」



いや、知ってましたけれども君が海賊目指してたけれどファラによって丸め込まれてしまったら哀れな少女なのも知ってましたけれども!子供船長は女の子ですよ、皆さんあまり勘違いなさいませんように!まあ年齢的にもわかりにくい年頃ですがね



「 それにしても、空から降ってきたとか。海上で竜巻にでも遭われたんですかね 」

「 ねえ、チャット。これから最寄の港へ送ってあげたいのだけど… 」

「 そうですね。そうした方がいいでしょう 」



チャットのカノンノの会話にエールがぼんやりと視線を向けるだけ。まあ私は送ってもらうとしたら目的地が多分時空とか銀河系とか平行世界とか超えなきゃいけないので無理と結論づけましてただいま絶賛あきらめモードです。いや、帰りたいとは思うけれども



「 で、あなたの国はどこですか? 」

「 …何も、思い出せない 」



エールの声に唖然とした空気と殺伐とした間が流れる。この緊張感を崩したくなるけれども、私は耐える。出来る子のはず



「 …それは、本気で言っているんですか? 」

「 …… 」



はい。とも、うん。とも言わずゆっくりと頷いたエールにチャットがため息。私のときも同じようなため息をつきながら部下の歓迎とかいってた気がする。あれ?気のせいだっけ?でも、あの時子分がどうとか…あれ?



「 どうやら、本当に自分の名前以外、記憶が無いみたいですが…。落下したときのショックですかね 」

「 それじゃ、この方ここにいてもいいんじゃないんでしょうか。船長さん? 」

「 構いませんよ。ただし、働かざるもの食うべからず、です。ボクの子分として、立派に働いて頂く事が条件ですけどね 」



ふふん。とばかりにまた胸を張ったのでまた生暖かい目で見ておこう。子供とは微笑ましいものだとは思うし、ディセンダーのグローブにそろそろ私の汗もしみこ…はっ!ちょ、はやく手を離そうかエール!やばいよ人の汗だよ油脂だよ!よくないよ!うん?油脂?



「 じゃあ、…っと。これよりバンエルティア号の一員としてあなたを迎えます 」



空いている手でチャットと握手するエールを横目に私の手を離してほしいなあとか思ってみる。思うだけで声に出せない私はチキンです。すいません。



「 カノンノさん、この船について簡単に説明をお願いしますね 」

「 はい。浅葱は? 」

「 エールが手を離してくれるなら夕飯の準備に行きたい 」

「 じゃあ、エール。手を離そう? 」



ふるふる、と首を横に降ったエールにカノンノが困惑の表情。あれ?コレって私が一緒に行けばいいって話なの?カノンノは私とエールを交互に見るし、あああ、でも夕飯の準備楽しいから生きたい!デザート作りたい!甘いものに触れたい!



「 エール、カノンノに案内してもらってから食堂にきたら私はいるから 」

「 そうだよ、一通り見たら浅葱に会えるから!ね? 」

「 うん。だから、行っておいで? 」



優しく微笑むとエールの表情はあまり動かなかったけれど力強く頷いてカノンノの後をついていく。なんて微笑ましいんだろう、可愛いし、何か可愛いし。あのツーショットを後ろから見守るのは楽しいです。うふふふふ。でも、下敷きになったからってあんなに懐かれるんだろうか?

マナのご加護吸い取ってなんか親族と勘違いしたとか、そんなわけ…ないよね?



( シンデレラで言えばシンデレラ役 )
( 白雪姫なら白雪姫役 )
( つまりはその話の主人公なわけで )

10/0817.




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