「 どうしてここに来たいなどと言ったんだ 」



世界樹に触れている手をそのまま伸ばして世界樹に抱きついてみるとそんな声が聞こえて後ろを振り向く。怒っている訳でもなくただの疑問として私に投げかけた声はどこか切なそうに響いた。意味はないわけではないけれど理由はただの散歩みたいなものだ。ずっと船の中で考え事なんて出来るような頭をしていなかったと言えばいいんだろうか…。でも下手な嘘をつくとお父さん怒るしな



「 散歩のついでに頭を冷やしにきたつもりだったんだよ 」

「 何かあったのか 」

「 そう聞かれちゃうと、ちょっとイラついちゃってさ 」



へらっと笑えば心配そうに顔をしかめたパパトス。なんというか、本当にこの人は優しすぎる。皆厳しいというけれど、人の感情に人一倍優しくて対面上は厳しいだけで不器用な優しさが少しだけくすぐったい



「 皆、みんなさ、負が悪い負が悪いって言うんだ。負は怖いって、負は自分達が生み出したもので自分のものを嫌って 」

「 …お前は、負が怖くないのか 」

「 牙を向けられれば怖いと思うし、怯むよ。でも、 」



あの子は人の型をしていた。右腕が違うだけで人と一緒。あの子は見た目は全部人と一緒。異型児と普通の子。何で人の形をしているかなんて人に愛されるべきだから。人と触れて話して、心を見せて、色んな感情を学ぶためにあの形をしているのに



「 それでも忌み、嫌うことにはならない。だって負は私達なんだから。それは負じゃなくて自分を嫌うべきなんだ 」

「 …浅葱、 」

「 なに? 」

「 それなら、エールはいらないのか 」

「 私の妹がいらないなんて、言うと思う?必要で必要で大事で、 」



あんなにも優しくて人の暖かいに敏感な子が不必要だとは思わない。でも、ゲーデも私にとっても、あの子にとっても必要だ。生まれても生まれなくても必要で、私にとって大切であった事には何も代わりなどないのに



「 妹ではなく、ディセンダーとしての話だ 」

「 ディセンダーだからって、何も変わらないよ。私の妹である事も、あの子が私を『お姉ちゃん』って呼んでくれている事も変わらない。ディセンダーは世界を救うけれど、世界を救うのだってディセンダー次第だし、ディセンダーではなくちゃいけないとは誰も言わなかった 」

「 …ああ 」

「 人の姿をしていることにだって意味はあるし、ディセンダーなんて二の次三の次の話だと私は思う。そうであってもそうでなくても、私の妹なんだから、必要なんかじゃなくて重要だよ 」



ゲーデも。
なんて言いはしないけれど、今触れている世界樹からこの気持ちが伝わればいい。痛い思いはやめようって、怖ければ私が傍にいてあげるからって、二人へと伝わってくれれば嬉しいのに



「 ディセンダーは人で、人が誰もがディセンダーになれる。英雄と同じだと思ってるよ。力がどうのとかそんなじゃなくて。だって、今の私達がそうでしょう? 」

「 お前はどうして、 」

「 世界樹は世界が好きじゃなくて人間や生き物が好きだから人間に似た、いや人を生み出したんだって絵本を聞かされたときに思えなかった事を私は今、思ってる 」



世界樹の根が傷ついても、世界樹は必死に負を押さえ込もうとして、負は飛び出そうとしてわずかな反発は私達に対する優しさだと思うから。この根を見たときに確信できると思ってここに散歩に来た。散歩にはならない散歩をしにきたんだ。危うく忘れるところだったけれど、これは私の大切な妹と、もう一人に関わることなんだからちゃんとしないとね



「 クラトス、あのね、ここだけの話なんだけどさ 」

「 なんだ 」

「 怒らないで聞いてね 」

「 … 」

「 きっと、この世界の人達に最低な事を言うと思うから 」



それでも私はこの言葉をはっきりと口にしてしまいたかった。
その魔法の手に嘘をつくことが、多分できなかったのかもしれない



「 私はエールがディセンダーをやめたいというのなら、その手をとってあの船から、あの場所から、世界の果てでも何処でも逃げる自信がある 」

「 だが、それは、 」

「 ディセンダーである前に、あの子は人であってエールって名前があることを忘れちゃいけない。それ以前に、それはあの子の願いであるのなら私は逃げる 」



あの優しい手をとって、逃げる。何処までもあの子を助けるんじゃなくてあの子がディセンダーというしがらみから助かるというのなら、手を貸す。逃げたいと一言でも言ったのなら、私は絶対にその手を掴んで放さない



「 まあ、もう一人にも言える話なんだけどね 」

「 もう一人? 」

「 ううん。こっちの話 」



私の覚悟をこの場所を言わなくちゃ行けない理由は、あの子を生み出したこのお母さんの前で言わなくちゃいけない気がしたから。意見を勝手に押し付けたみたいで悪いけれど、言う時にはしっかりといわせてもらいたい。私なりのあの子を守る手段なのだから



( クラトスは悲しそうに笑った )
( 私は、それを見てから、覚悟を立てたのに震えそうになる )
( とんでもない事を言った事に、気付いていたのに )
( この世界を追い込むようなことを、言った事に膝が笑う )

11/0219.




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