いつもの廊下の壁に寄りかかっているクラトスに手を振ると視線を向けてきた。別名は守護神パパトス。子供達を守り、エールに優しく、そして、私に甘い。多分娘みたいに思ってくれているんだろうとは思うけれど私はやろうと思えばロイドのお母さんにだってなれる気がするよ!まあ今はそれどころじゃないんだけれども。
「 クラトス、一緒にお散歩に行かない? 」
「 …散歩? 」
「 うん。また一人で遠出すると皆に怒られちゃうから、クラトスと一緒に 」
世界樹のところへ行きたいだなんて言ったら怪訝な顔をされるのもわかっているから、行き場所は言わずに頭を下げる。お願いしますって誠意を込めて。何秒か頭を下げていると上からため息が聞こえて、頭の上に軽い重みがしてもそもそ動く感覚に視線だけ上げると
「 あまり危険な地区には、行かせないぞ 」
「 うん 」
「 お前も知っている通り、今世界中で負の影響が出ているからな 」
「 だから、一緒に来て欲しい 」
「 …何処にだ 」
く、くそう微妙に頭を撫でられたままだからなんだか甘やかされてしまってドキドキしている気がするんだけれども、これを狙ってやっているとしたら緊張感も何も無いぞ。お父さん、と不意に呼んでしまいたくなるようなこの感覚を狙っていないとしたら天然か!天然なんですかね、パパトス!
「 世界樹、の根元 」
「 …世界樹の根元? 」
「 だ、駄目ですか 」
連れて行ってくれませんか。
粘菌の巣のほうでいいです。まだ出てないマンダージとかじゃなくていいから!お願いだから私を連れて行ってくださいクラトス。私には一人でそこにたどり着けるような力は何一つ無いんです。多分
「 お前の散歩をする場所は、普通とはいえないが 」
「 …う、 」
「 まあ、不用意に森の中で散歩をされるよりはいいだろう 」
「 本当? 」
「 ああ 」
私一人での単独行動よりも、一緒に居ることを選んでくれたこのお父さんになんと感謝したらいいのか。思わず手を伸ばして抱きつくと、ふっと微笑んだ。遠くから赤毛の声が聞こえた気がしたけど、すぐにジャッチメントの声で消えてしまったので始めから無かった事にしよう
「 ありがとう 」
「 あまり遅くなるとジェイドになにか言われるだろう。行くぞ 」
「 うん 」
ちゃんとジェイドへの対策も考えてくれているだなんて流石すぎます。お父さん。もう一生お父さんでいてくれ。初めのほうのクラトスのお嫁さんとか言う夢は軽く捨ててくるから一生私の頭を撫でて褒めてほしい。パニールは魔法で優しい言葉を言ってくれるけれど、クラトスの場合は魔法の手だ。なんか元気になれそう
「 浅葱、 」
「 なに? 」
「 腕を見せてみろ 」
「 …クラトス、これはあの子と和解してからでいい 」
多分ファーストエイドを掛けてくれようとしたんだろうけれど、今は必要ない。むしろ必要とはしてはいけない。傷は治るという魔法。だけど、傷をつけたという事実は変わらない事を私はあの子に言わなくてはいけない。
「 今治してしまうと、上手く言えないから 」
「 …そうか 」
「 ありがとう。気を使ってくれて 」
それでも、治さなくても傷は大きくないからすぐにかさぶたになってはがれて消えてしまうだろう。コンクリートの壁で引っかいたみたいな傷だから。削れた訳じゃなければ痕も残らないし、すぐに治って痛みなんてかゆみになるくらいだ。かさぶたって痒いってことをこの世界にいるとついつい忘れてしまいそうになる
「 クラトスって、やっぱり優しいね 」
「 優しくなどない 」
「 ううん。優しいよ 」
優しくて我慢強い。
羨ましいし、なによりもその心の寂しさを見せない強さが私は見習いたいほどに
「 あ、 」
「 どうした 」
「 船出るまで、手を貸してほしいんだ 」
その魔法の手から少しだけでいいから、力を貸して欲しいから。なんていったらクラトスは笑うんだろうか。それでもその手のおかげで逃げずにすんだし、何度も戦いで助けてもらって、元気もたくさんもらった。その手を魔法の手と呼ばずして、私はなんと呼べば良いのか
表現できない手の効能は( 魔法使いの手よりも凄くて )
( 手から思いが伝わってきそうなほどあたたかくて )
( 深入りしない優しさがある )
11/0218.
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