あの子が爪を立てた腕はまだ痛みが走る。皆が治療だなんだかんだと言いはじめていたけれどそれを全部断って科学部屋へとついてきてしまった。自分の部屋に戻っても隣の部屋から聞こえるあの子の泣き声をただ聞いていても、自分の無力さにきっと吐き気がしてしまうのも、考えるだけで不快感が胃を荒らしてしまう



「 セルシウス、ね。精霊に会うのは初めてだわ 」



また椅子に立てひざ座りをしながらただぼうっとその場所にいるだけで、リフィルがああしたとか、それに誰が対応するだなんて全部頭の中にあったとしても。私はこの場所から動けないし、動くような気力は何一つ残っていない



「 私はリフィル。今や、世界は世界樹から噴出した負により様々な影響を受けているわ 」



自分達の負を受け止めてくれていた世界樹が無くなったも同然の発言に苦しくなって息を吐き出す。私達が受け止め切れないものを、包んでくれる。飲み込んでくれる世界樹は、優しい。優しい樹



「 世界がこれ以上負に侵されないよう、私達に力を貸して欲しいの 」

「 世界樹に傷を… 」



納得したようなセルシウスの声に私はそっと視線を上げる。視線を上げただけで別にこれといったものは無いのだけど、ただこの場所で話に参加をしているような感覚でいたいのと、今は少し孤独が酷く痛くて。人のいる場所に存在していたいだけ



「 そのせいだろうな。浄化されるべく世界樹に流していた負が全く流れていかなくなったのは 」



流しては押されるように帰ってきた負。



「 根が傷ついた事で、世界樹は負を抱える能力を大幅に失ったのだ。このままでは世界はどんどん穢れていく 」



世界樹はどんな気持ちで受け止めきれなくなった負を流してしまったんだろう。もう精一杯だったその負をどうしていたのかな。必死に生まれ変わらせようとしていてくれたんだとしたら私達は世界樹に対して何をしているんだろう。傷つけてしまった罪悪感に潰されそうになっている場合じゃないのに



「 負が増えると、魔物が増え、人々の心も荒む。そうして負が更なる負を生んでいくのだ 」

「 世界樹は負を受け入れそれを浄化する能力があるの? 」

「 そうだ。世界樹は負を抱え無に還す。この世界が負で覆われぬように 」



今度、傷ついてしまった世界樹の根のところに行ってみたら少しでもわかるかな。



「 そして、精霊は負を世界樹に送り込む役割を担っている 」

「 でも、世界樹が再び負を抱える力は今はもう、ないのね… 」



世界樹はどんな気持ちで私達を見守ってくれて負を受け入れてくれていたのか。それがわかったら少しでも私の心が軽くなるような気がする。いつまでもこうやっている訳にはいかないのだから、あとでお昼のお散歩と称してあの場所に行ってみよう



「 マナを生産する力もますます失われつつある 」



失われても抵抗しているのか
私の妹とゲーデを生み出したあのお母さんには聞きたい事が沢山あるのに



( 心配されると面倒だからクラトスも連れて行こう )
( パパトスなら私の奇怪な行動も )
( 多少は許容範囲だったはずだ )

11/0218.




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